言えない言葉 「レンは、リンに『愛してる』って言ってくれないね」 「……は?」 うん、いいの、知ってる。ちゃんとリンのことを好きでいてくれてるのは知ってる。……でもね、たまには言葉がほしいの。 そんなことを考えるようになったのは、カイト兄とメイコ姉を見たから。デート中の二人を、偶然見かけてしまったから。カイト兄は、けっこうさらりと「愛してる」と言うのだ。メイコ姉はみんなの前だと「やめてよ」なんて言うけれど、満更でもなさそうな顔をしていて。これが二人だけのときだと、さらにすごい。幸せオーラを隠しもせず、「私もよ」だなんて。幸せそうな二人を見るのはいいけれど、その度にちょっとうらやましくなるのも事実。だって、レンはなかなか口に出してくれない。 女ってめんどくさいね。ちゃんと気持ちはわかってるのに、それでも言葉が欲しくなるの。 「……リンは、さぁ」 言葉にしなきゃ、オレの気持ちわかってくれないの?なんて。とってもめんどくさそうにレンが言う。 「そんなことないっ!けど……」 だけど、でも……。あたし、なんで言葉が欲しいんだろう。レンの気持ちは、ちゃんとわかってる。不安もない。信じてる。それでも、言葉が欲しいなんて。 「……ごめん、やっぱいい」 結局、いつものことだ。あたしのワガママ。 「めんどくさくて、ごめん。怒ってる?」 さっきまでの勢いはどこへやら。すっかりしおらしくなってしまったあたしを気遣うように、レンが近づいてきた。困ったように笑って。 「ちょっと、めんどくせーなって思った」 「う……ごめ」 「ウソ。思ってねーよ、んなこと」 え?と顔を上げる前に、レンにぎゅーって抱きしめられた。 (……え、ええ?) あの照れ屋のレンが……?状況がわからなくてうろたえるあたし。その動きを止めるかのように、彼は腕の力を強めた。レンのにおいに包まれて、あたしはやっとおとなしくなる。けれど、心臓はドキドキしたままで。 「……まだ、わかんねーんだ」 「?」 「愛とか、恋とか、何がどう違うのかとか。だから言えねぇ」 ……だけど、ちゃんと好きだから……それは、とても小さな声だったけれど、たしかにあたしの耳に届いて。その言葉に、胸の奥の方がきゅってなった。好きって言ってくれたこともだけど、レンが言葉をすごく大事にしてるのがわかったから。 やっぱり、あたしはこの人が好き。大好き。 (たぶん、耳まで真っ赤にして言ってくれたんだろうな…) えへへ、うれしいや。どんな言葉よりも、あたしを幸せにしてくれた。 あたしからもぎゅーって抱き返して、二人でぬくもりを感じ合う。これだけで十分伝わってくるけれど、やっぱり言葉にしてもらうのもいいなぁ。 ××.××.××. まだ幼い鏡音さんには、愛や恋なんて早いのです 好きがあればいいのです →back |