サクラ舞い だんだん暖かくなってきて、最近は外も気持ちいいなぁ…なんて。ただなんとなく、空を見上げた。だけどそのとき見つけたものに、思わず「あ…」と声を出してしまって。 どーしたぁ?と声をかけてきたのは、重そうなバッグを抱えた田島くん。今はみんなで、荷物を移動するために部室から歩いてきている。さすがに、マネジの私一人じゃ終わらせられないから。 春になれば、新入生がやってくる。その人達のために、部室の整理をしていたところ。荷物の移動と部屋の掃除。今日は一日かけて、それをする日なのだ。 「うん、あのね……」 あれ、と指差せば、田島くんも同じように空を見上げた。そして、そこにピンク色を見つける。青空の中の、ピンク色。 「サクラ……?」 「そう。今年、あったかいもんね。もう咲き始めたみたい」 まだ咲き始めたばかりだから、空の青に比べれば、ピンクの割合なんてホントに少ない。でも、だからこそ映えるのかな。きれいって思うのかな。 「……そーいや、去年みんなで花見したよなぁ」 「そうだね。あのときの桜、ちょうどいい感じに咲いてたよね」 風でひらひらと揺れる桜。満開の桜の木の下で、おにぎりを食べながら、みんなでお花見したんだっけ。 (そういえば、お花見のとき……) 散った花びらを集めて、桜吹雪を私に散らしてくれたよね。運んでたおにぎりに、花びらが付いちゃったりなんかもして。……懐かしいな。もう、一年も前のことだなんて。 「今年もやりたいね、お花見」 「そうだな。……じゃ、今日掃除のあとやるか?」 「ええ?さすがにまだ早いよぉ」 「あ、そっか」 でも早くやりたいよなぁ、と彼が楽しそうに笑う。その笑顔が、桜吹雪を散らしてくれたときのものと、少しだけ被って見えた。 だからかもしれない。「じゃあ、もう少ししたら、二人でこっそりお花見しよっか」なんて言葉が、簡単に出てしまったのは。花見をしたかったのは本音だけど、言うつもりなんて微塵もなかったのも事実で。ましてや、二人でなんて、言うつもりはなくて。驚いてじっと見てくる田島くんより、もしかしたら私の方が驚いていたのかもしれない。 「……あ、あのっ」 「そーだな!」 言い訳するよりも早く、にかっと笑って応えた田島くん。え?と戸惑う私をよそに、楽しそうに笑って。 「オレ、いいとこ知ってるよ。この辺で一番早く咲くとこ。今度そこ行こうぜ!」 二人で、と付け加えられて、自分の発言の大胆さに気付いた。でも、今さら後悔しても遅い。それなら、この状況を素直に喜ぼう。 「そうそう、おにぎりよろしくな!そしたら……」 オレ、またサクラ降らせるから!いたずらっこのようにニカっと笑う田島くん。1年前と、ダブって見えた。 「……覚えてたの?」 「あったりまえだろ?しのーか、サクラ似合ってたし!」 キレーだったぞ、ゲンミツに!いつもの単語を使われ、少しだけ笑ってしまったけど。キレーと言われたことも、一年前の何気ないワンシーンを覚えていてくれたことも。どちらもうれしくて、顔が赤くなるのは避けられそうになかった。そして、お花見のときも、きっと…… →back |