星を掴む 「星が降ってくればいいのに」 ウィンリィがぼそりと呟いた言葉は、隣にいるエドワードの耳にも当然届いていた。この時期の夜風は心地よい。ロックベル家のベランダに並んで、二人で空を見上げていた。 「それって、流れ星ってことか?」 「ううん。絵本とかで見るような、あの形の星」 「…」 「それが降ってきたらいいのになぁって」 「…」 「…なによ、その目」 信じられないものでも見るような目つきのエドワードに、むっとしたようにウィンリィは返した。実際、エドワードは信じられないと思いながらウィンリィの話を聞いていた。夢があるとかないとかいうレベルの問題ではない。おまえ何歳だよ、と言いたい。 それは、得意の錬金術をもってしても叶えてあげられない願いだった。ウィンリィは、星形の何かがほしいのではない。あの夜空に輝く星が、思い描く形となって降ってきてほしいと思っているのだから。 「…なんで?」 純粋な疑問。今まで何度か一緒に空を眺めていても、そんなことを言い出すことはなかったから。しかしウィンリィの答えは、「なんとなく」。予想通りといえば予想通りなのだが、拍子抜けしてしまう。 「ただ思ったから言ってみたの。エドに拾われると思ってなかったし」 でも、なんか素敵じゃない?流れ星なんかよりもずっと、夢が叶いそうな気がする。そう言って空を見上げれば、そこにはたくさんの星が輝いていて。こんなにきれいな夜空を見られるのは、田舎の特権だなぁなんて思ったりもして。冷たい夜風が二人の髪を揺らした。 「夢、ねぇ…」 おまえの夢ってなに?んー…エドのお嫁さん?ぶっ!おま、なに言って…!あはは、冗談よ。冗談って…それはそれで傷つくんですけど… いわゆる恋人という関係になってから数年。それらしいことをしていないわけではないが、基本的には以前と変わらない二人であった。照れがあるのも事実だが、それ以上に、自然体でいることが基本の二人にとって「恋人だから」という考えが少ない。それでもこうして並んでいれば、キスを交わしてみたりもする。エドワードもそれなりに、ムードが読めるようになってきた。 「星なんか掴まえなくたって…」 ぎゅっと押し付けるように、ポケットに忍ばせていたものをウィンリィの手のひらにのせた。ずっと渡そう渡そうと思っていたのだがなかなか実行できず、実は買ってから一週間近く経っていたのだが。夜のベランダで二人きり。ムードもそれなり。タイミングとしては、今がベストだろう。というより、今を逃したらまた数日ポケットにしまうことになりそうだ。エドワードのそんな想いが、行動となって表れたのである。 彼の突然の行動にウィンリィは当然目をぱちくりとさせたが、自分の手のひらにあるものをまじまじと見つめると、ふっと笑った。 「こんなタイミングで渡すなんて、指輪かと思っちゃった」 「おまえが変なこと言っただけだろ」 つーか、女に言われて指輪渡すのは、男のプライドってもんがだなぁ…がしがしと頭を掻きながら、エドワードはぶつぶつ呟く。そんな彼を見て、ウィンリィは再び笑った。 彼女の手のひらには、星形のトップがついたシルバーのネックレス。華奢なデザインは、あまりアクセサリーで飾らないウィンリィに似合いそうなものだった。特別な記念日などではないのにプレゼントをくれるということが、素直にうれしいと思う。なかなかそういうことをしないエドワードだからこそ、だ。 「へへ、ありがとう。…ねぇ、つけてくれる?」 「お、おう」 ぎこちない手つきでウィンリィの首に腕をまわし、なんとか繋ぐ。鎖骨の辺りで小さく輝く星を、二人で見つめた。 「ありがと、エド。うれしいよ」 ホントに星が降ってきた。指でいじり、感触を楽しみ、笑いかけながら伝えた。そんなウィンリィがかわいくて、けれどその言葉を口にすることができないまま、エドワードは照れ隠しに彼女の額へとキスをした。今はもう、自分よりも低くなった額に。 →back |