ねぇ。 今日のウィンリィは機嫌がいい。鼻歌なんか歌ってるし、足取りも軽く見える。仕事、もう終わったからかな。 相変わらず露出度の高い作業着には、ドキドキというよりハラハラを隠せない。幼なじみであるオレでさえ、どこに目をやっていいのかわからないのだ。 (他の客はどんな目で見てんだろ……) それを考えると、なんだか無性に腹が立った。今は家にいるからまだいいんだけど。 「……?どしたの、エド」 思わずため息をついた、仏頂面のオレ。彼女の問いに、なんでもない、と返事をするのが精一杯で。頭にクエスチョンマークを浮かべたままのウィンリィに、なんとか別の話題を持ち出した。 「……全然関係ないんだけどさ」 「うん」 「昔な、アルに『身体が戻ったら何したい?』って聞いたことがあるんだ」 昔っていうほど昔でもないけど、まだ『約束の日』とやらも来てなくて。まだまだオレたちは、微かな光に縋っていた。少しの希望も、大きな期待だった頃の話。 「そしたらあいつ、何て言ったと思う?」 「?」 「アップルパイが食べたい、だとさ」 「……えへへ」 その言葉だけで、誰が作ったものかなんて簡単にわかった。今、照れたように笑っているウィンリィも同じだろう。あの時は笑わないなんて約束を無視して大爆笑したけれど、アルの気持ちはわかってた。オレだって食べたいし。 彼女は、うれしいなー、とますます足取りを軽くしたにこにこ笑って、その姿はとてもスパナを振り回すような女には見えない。 「……ねぇ」 突然、思い出したように振り返ったウィンリィ。淡い金色のポニーテールを揺らして、顔を覗き込むように伺ってくる。そのしぐさに、なぜだか少し、ドキッとした。 「あんたは?」 「はい?」 「あんたは、身体が戻ったら何したいって言ったの?」 「オレは……」 もちろん忘れたわけではない。今でもちゃんと覚えてる。 ずっとずっと、笑顔が見たいと思ってた。みんなの笑顔が見たかった。そのみんなの中に、ウィンリィが含まれているのは必然で。嬉し泣きさせてやる、なんて思ってたけど、やっぱり見たいのは笑顔だから。 「……やっぱ内緒」 「えー」 こんな恥ずかしいこと、言えるわけねーよ。ウィンリィは不満そうに頬を膨らませたけれど、諦めたように笑った。そう言うと思った、なんて言って。 「アップルパイかー。次はいつ作ろう」 「いつでもいいぞ、オレたちでほとんど食っちまうし」 「あんたたちっていうより、ほとんどあんた一人でしょ」 揺れるポニーテールに、反射する光。窓から射す光のせいだけではなく、ウィンリィがキラキラして見えた。 たぶん、それは、あいつの表情。 (一番見たかったものだから) 身体が戻る前も、同じように笑顔で迎えてくれたけど。少し違って見えるのは、きっと笑顔の意味の違い。 09.05.03.(エドウィンの日) 2009年の503Festival様に投稿させていただきました 身体が戻ったあと、旅してた頃のことをふっと思い出して話せる関係だったらいいなあと Polka Dotの鵺宵様とコラボさせていただきました →back |