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「銀ちゃん銀ちゃん、『トリック オア 酢昆布』アル!」
「は?それ言うなら『トリック オア トリート』だろ」
「だって私、甘いものより酢昆布が好きヨ」
「欲しいもの強請るのはハロウィンじゃなくてクリスマスだろーが」
 わけのわからない神楽の発言。しかしそれで思い出したのは、今日が10月31日であるということ。
「ハロウィンかー。お菓子くれよお菓子」
「ダメですよ銀さん。今日は逆です」
「いいじゃねぇか。クリスマスと違ってハロウィンは大人も遊べるんだよ。むしろ大人が遊ぶ日なんだよ」
「いや意味わかんねぇよ。……そうじゃなくて」
 言ったじゃないですか、今日は姉上の誕生日だって。新八の言葉に、あー……と適当に相槌を打つ。忘れているわけではなかった。ちゃんと、覚えていた。
 数日前、新八に言われたのだ。「31日は姉上の誕生日なんです。今までは二人で祝ってたんですけど、今年からは銀さんと神楽ちゃんも一緒にお祝いしませんか?」と。出会ってからまだ数ヶ月だが、それだけ万事屋という存在が彼らの近くにあるということ。シスコンな弟としては二人きりで祝うのも選択肢から外れていないが、俺や神楽がノーと言うわけないと察している言い方だった。
「銀さんの誕生日だって祝ってくれたじゃないですか」
「わーってるよ。ちゃんとケーキの材料も買ってあるって」
 銀ちゃんは素直じゃないだけアル、という神楽の発言は無視して、台所へと向かった。スポンジ用のあれこれも、デコレーション用のフルーツや生クリームも、ちゃんと用意してあるのだ。新八が許すかぎりの予算ではあるが、それなりのものが作れるだろう。
 凝り性ではないが、デザートを作るときだけは別だ。そのやる気を他のところに使えと何度言われたかわからないが、やる気なんて自分でコントロールできるものではない。特別凝ったものを作るつもりも手を抜くつもりもなく、結果いつもどおり…自分で食べるには無駄に気合いが入っているというレベルのケーキができあがった。苺のショートケーキを1ホール。メンバーがメンバーなので、多すぎることはない。
 そして夜。メイン料理はケーキなんじゃないか、というこたつを四人で囲む。お妙の両横には新八と神楽が、向かいには俺が。決して贅沢はできないけれど、それなりに楽しめそうだ。
「すごい……このケーキ、もしかして銀さんが作ったんですか?」
「まあな」
「さすが、甘いものになると違いますね。私も今度教えてもらおうかしら」
「いやー、さすがの俺でもおまえには教えらんねーわ。教えたところでどうせダークマターに」
「何か言いました?」
「……いえ、なんでもないです……」
 何度したかわからないやりとりに、新八と神楽が同時にため息をついた。新八に至っては、祝いの席で……とでも言いたげな目つきで睨んでくる。
「銀ちゃんの言うことはほっとくヨロシ」
「ええ、もちろん気にしてないわ」
 それよりもプレゼントアル!お妙を慕う神楽は、渡したくて渡したくてたまらないといった様子で彼女の腕に抱きつく。せっかく四辺あるのにおかまいなしだ。新八もそそくさと隣に移動している。なんだこれ。
 わいわいとはしゃぐ三人を横目に、ケーキを切り分ける。いきなり1/4……は、さすがに多いか。ちょうど飾り付けた苺は8個。1/8カットってとこだろ。ここは一応主役から、ということでお妙から皿を受け取ると、倒さないようにケーキを乗せる。ほらよ、と言おうとした瞬間、神楽の声が遮った。
「アネゴ、うれしいアルか?」
 なぜか動きを止め、思わずお妙を見てしまう。神楽はきっと、誕生日パーティーのことを聞いているのだろう。自分の方がうれしそうな神楽。その頭を撫でて、お妙はいつものようににっこりと笑う。
「ええ、もちろんよ」
 そして彼女はこっちを見て、もう一度笑うのだ。
(……なんだってんだ)
 なんとなく気恥ずかしくて、思わず視線を逸らす。何かを感じ取ったらしい新八の視線は、もちろんスルーだ。俺だってわけわかんねーよ。
 左手には、ケーキを取り分けた皿がある。それをしばらく見つめて、無意識にため息をひとつ。大皿のケーキから苺を一つ取ると、お妙分のケーキの上に乗せた。もちろん元々苺は乗っていて、一切れのケーキに二つ並んだそれはどこか可笑しかったけれど。
「……おめっとさん」
 それだけ言って手渡した。




10.10.31.(志村妙誕生日)
坂田家大好きです
しかしこちらも糖分控えたことに後悔が…




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