最後の年(同級生パロ) チリリン……とかわいらしい音が聞こえて、思わず顔を上げた。風鈴の季節にはまだ少し早いような気もしたが、その音に悪い気はしない。 夏というにはまだまだ早いが、桜は散って気温も上がり、穏やかな春は過ぎ去ってしまったようだ。ついこの前までは風が冷たかったのに。いつの間に、こんな季節が来たのだろう。 風鈴の音を聞きながら、よく晴れた青空を眺める。そういえば、数日前にお花見をしたときも、こんなふうに気持ちよく晴れていたっけ。花びらが舞う中での花見は、何度経験しても感動する。感動なんて、大袈裟な言葉かもしれないけれど。 ジリリン……と、今度は濁った鈴の音が聞こえて、思わず振り返る。自転車のベルだということはすぐにわかったけれど、一体誰だろう。 「……よぉ」 気怠げな声に、やる気のない目。ふわふわ頭の同級生に、なぜだか驚いて声が出なかった。あら坂田くん、どうしたの?いつものように、そう言えばいいだけなのに。 「なにしてんの?」 「お買い物に行く途中なのよ」 「ふーん……」 じゃあ、乗ってく?その言葉の意味はすぐに理解できた。彼の自転車の後ろに、ということなのだろう。だけど、なんで?とか甘えてもいいのかしら、なんていろいろ考えてしまうのは、きっと私が意識しているから。 彼とは小学生の頃からの付き合いだ。今更、意識しなくたっていいじゃない。そう思うのに割り切れないのは、きっとこの恋心のせい。 遠慮がちに、でもこのドキドキに気付かれないよう自然に、自転車の後ろに乗る。……ちゃんと彼に掴まった方が安全だろうか。変に意識してると思われても困るけど、ああでも……。自分でもわかるくらい、意識しないようにすればするほど意識してしまっている。悩んだ末、制服のシャツを握るだけにした。大丈夫、平坦な道だし、怪我をすることはないだろう。 「いいか?行くぞー」 「はい」 ゆっくりと動き出した自転車。二人分の重みではじめはぐらついたものの、すぐに安定して走るようになった。 歩いていただけではわからなかった風を感じる。それはもう冷たいと感じる事はなく、暑いくらいの気温にちょうどいい。そんな中で自転車を走らせていたせいか、彼がうっすら汗をかいているのが背中越しに伝わった。この距離感が、もどかしい。 ガタンと揺れる度に、小さくベルが鳴る。それに合わせて、私たちの距離も変化する。近づいたり離れたり。わずかな変化ではあるけれど。 「……坂田くん」 「ん?」 「このあと、少し時間あるかしら?」 よかったら、買い物のあとに冷たいものでも食べに行きません?お礼という口実で、二人でいる時間を長くする。断られてしまえばそれまでだけど、なんとなく断られる事はないだろうという予感があった。 「なに、パフェでもおごってくれんの?」 「……しかたないわね。ひとつだけですよ」 新学期が始まって、とうとう卒業を控える年になって。欲張ってもいいのではないだろうか。彼といる時間を少しでも増やしたいと、そう思う気持ちに素直になってみてもいいのではないだろうか。だってこんなにも、時間が経つのは早い。きっと、あっという間に卒業してしまう。 ふと、目の前の背中に額を当ててみた。触れた場所から、じんわりと熱が伝わる。いいねぇパフェ、と呟く彼は、何を想っているのだろう。また段差で自転車が揺れて、ジリンとベルが鳴った。 10.05.05. 自転車二人乗りって、青春な感じがします 同級生設定楽しいです →back |