be a slave to love 初めてのキスは、想いを伝え合う前だった。伝え合う、ほんの一瞬前だった。名前を呼ばれたあと、よくわからないままに唇を塞がれて、だけど抵抗することができなくて。力のせいじゃない。私に抵抗する気がなかったからだ。ぬくもりが離れていったあとに、彼は自身の想いを口にした。驚きが隠せなかった……のに、すんなり受け入れられたのは、きっと私も同じ気持ちだったから。 鎖骨の辺りに歯が立てられ、思わず吐息と甘い声が零れた。そんな私の反応に、彼はいやらしい笑みを浮かべる。悔しくて悔しくてしかたがないけれど、反論の言葉が出てこないのも事実だった。 (私、ずっと負けっぱなしね) 思えば初めからそうだったんだわ。最初にキスされたときから、ずっと。 「お妙……たえ……」 名前を呼ばれるだけでも、こんな気持ちになるようになっちゃったんだもの。私はずっと、彼に負けてる。 「銀、さん……」 死んだ魚のような目は、こんなときでも輝かない。けれど、微かに揺れている。 やさしい色をしている。それを知っているのは、私だけ。 (負けの代償なんて、これで十分よ) だって、しあわせだもの。たくさんたくさんキスをもらって、甘い時間を共有して。それで十分じゃない。ねぇ、銀さん? 彼のごつい手が、私の頬に触れてやさしくなぞる。こんなやさしい扱いもできるんだ、とはじめは驚いたものだった。彼のぶっきらぼうなやさしさは知っていたけれど、そのやさしさを肌で実感するのははじめてで。気付けば、添えられた右手に自分の左手を重ねていた。あたたかい手のひらに、涙が出そうにさえなったことを覚えている。 今、あのときと同じようにやさしく手を添えられて、キスが降りてくる。唇を離して見つめ合えば、好きという言葉は簡単に零れた。 「……かわいい」 苦笑して呟く銀さん。ねぇ、その苦笑いの意味はなあに?尋ねる前に耳にキスを落とされて、私はまた甘い声を零す。わかってたけど、やっぱり教えてくれないのね。ずるい人だわ。 10.04.01. 言葉で伝える前に始まる恋でもいいじゃない 裏か表かで迷いましたが、表で →back |