長閑さにはまだ遠く | ナノ


長閑さにはまだ遠く




「電気消すぞー」
「ん」
 当たり前のように同じベッドに横になる。向き合ったときの距離の近さに、はじめはどうしようもなくドキドキした。ドキドキするのに不思議と落ち着いてよく眠れる、そんな場所。ようやくこの距離にも慣れてきて、すんなりと彼の背に腕を回すことができるようになった。
 エドの腕の中は、いつもあたたかい。その重みが心地よい。
 隣からはすぐに寝息が聞こえてくる。あまりの早さに驚いたものの、何もしてこないということはつまり、本当に寝てしまったのだろう。
「……エド?」
 小さな声で呼んでみても、返ってくるのは穏やかな寝息だけ。小さくため息を吐きつつも、まあいっか、とその胸に顔を埋めた。
 エドのにおいがする、なんて、思っても絶対口には出さない。この期に及んでも恥ずかしさが上回るのは、付き合いの長さと意識してしまった今があるからこそだろう。もしかしたら、本当の意味で慣れる日なんて来ないのかもしれない。でも、それならそれで、あたし達なりの関係を作るまでだ。
「おやすみ」
 なんとなく呟いた一言に、ぴくりとエドが反応する。抱き寄せるかのように腕に力が篭り、思わず息を呑んだ。
 起きてたの? その一言が声にならない。
 どくん、どくん、と心臓だけが大きく鳴る。彼の吐息に乱れはない。
(寝ぼけてる、だけ?)
 試しにこちらからも抱きしめ返してみる。……けれど、反応はない。もし起きてるんだったら、何かしら反応があってもいいはずなのに。
 寝ぼけてるのね、と結論付けて、息を吐きながら腕の力を緩める。あたしも寝よう。大きく深呼吸をしてから目を閉じてみるものの、しばらくしてもなかなか寝付けそうにない。いつもなら、この体温に安心してすぐに眠れるのに。
「……っ」
 ふと、また彼の腕に力が込められた。……どうやらあたしが寝付けない原因は、彼のこの無意識の行動のせいのようだ。
(なによ、自分ばっかりぐっすり眠っちゃって……)
 八つ当たりにも似た感情をどこにもぶつけられなくて、ますます意識だけが覚醒していく。暗闇に慣れた目で少しだけ見上げると、そこには子供のような顔で眠るエドがいた。
 ――寝ぼけてるくせに、無意識で求めてくるなんて、可愛いって思っちゃうじゃない。
 くすぐったさと悔しさと、どうにも持て余し気味なこの感情。惚れた弱味だけじゃ済まないのだ。だって、あんただってあたしのことを好きって言った。あたしばっかりがこんな想いをするのは不公平だ。
(……バカエド)
 もう一度目を閉じる。エドの様子が気になって、時々目を開けたくなるけれど、きっと寝ているだけだから。半分意地のようにぎゅうっと目を瞑って、心臓が落ち着くのを待った。……やっぱり、慣れなきゃダメかもしれない。




12.12.31.
大晦日とはなんの関係もありません
無意識に甘えてくるエドかわいいわねふふふって感じのほのぼのになる予定でしたが、書いてみたら予想以上に甘かったので少しだけ路線変更
その結果、ウィンリィさんには「バカップル」って言葉を教えてあげたくなるような話になりました あれ?




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