まっすぐな気持ち(恋人設定) クリスマス目前、雪もちらつき始め、吐く息は白い。学校からの帰り道は、いつも二人で並んで歩く。自転車を押して歩くササヤンくんと、その隣を歩く私。……何も変わらない。一年生の頃から何も変わらない光景。 「……でさー、そしたら吉田が……」 それを不満だと言ったら、彼は怒るだろうか。 「……夏目さん?」 キッと車輪が音を立てた。どうしたの?と覗き込む彼の顔が見られない。マフラーに口元を埋めるようにして俯いた。 距離は、たぶん縮まったのだ。けれど、元から近いところにいたせいか、あまり変化がないように感じられる。ただのわがままなのかもしれないけれど、もう少しだけ近づきたい。 「何も、変わらないんですね……」 「変わらない?」 「変わらないです、ササヤンくん」 「……えーっと、それ褒めてるわけじゃないんだよね?」 そのまま口を閉ざした私に、困ったように頭を掻く。 「俺、飲み物買ってくるからそこで待ってて」 こくんと頷いたあと、公園のベンチに腰掛けた。幸い、まだ雪は積もっていない。コートの裾はきっと濡れてしまうけれど、関係なかった。 インターネットの世界には、いろんな情報が飛び交っている。恋人という関係に憧れを抱いてしまうのは、少なからずその影響があるのだろう。『恋人同士はこういうことをする。それが当たり前だ。』そんな固定観念を持ってしまっているけれど、それがどこまで現実なのかがわからない。どのくらい経ったら何をするのが普通なの?なんて、答えがないとわかっていても、正解を求めてしまう。相手に求めてしまう。 「お待たせ」 「あ、ありがとう」 「はー、やっぱあったかいもんでも飲まねーときついなー」 ホットココアの缶が差し出され、隣に腰掛けるササヤンくん。間に人ひとり分の距離が開かなくなったのは、きっと関係が変わったからなのだ。 「お、笑った」 「え?」 「だって夏目さん、今日の帰りずーっと俯いたりムスッとしてんだもん」 「……ごめんなさい」 「いーよ、謝んないで。それより、言いたいことあるんでしょ?」 「……」 彼が大人なのか私が子供なのか。そういう差を感じる度に泣きたくなるけれど、ぐっと唇を噛み締める。不釣り合いなんじゃないかとか、なんでいつも余裕があるのかとか、今言いたいのはそんなことではなくて。 「……ササヤンくんは、何もしてこないんですね」 「……はい?」 「デートのときに手を繋いだくらいです。それ以上のことは何もしてこない。今までと何も変わらない。それが……」 寂しい、と続けようとして、ようやくその感情に気がついた。 (そっか、寂しかったんだ……) 世間がどうとか、普通がどうとか。それよりも、単純に彼に触れられないのが寂しくて。自分からどこまでしていいのかもわからなくて、迷って、一人で混乱して……。それに気がつくと、ササヤンくんに当たるのは何か間違っているような気がして、言葉に詰まった。 「あー……」 思い当たる節があるのか、彼もいつものようにすんなりと言葉が出てこない。それでもしばらく考えて、口を開いた。 「だってさ、次また夏目さんが男嫌いになったら、それって俺のせいじゃん?」 「……っ」 「せっかく心開いてくれたのに、そんなふうにはさせたくなかったし」 でも逆効果だったならごめん。 そうまっすぐ伝えてくれる彼に、胸が痛んだ。ササヤンくんはいつだって誠実に、私のことを考えてくれている。……そんなこと、知っていたはずなのに。 ――好きだとかかわいいとか、男なんて結局そういうことがしたいから甘い言葉を紡ぐんですよ。 言われてみれば、私が言いそうな言葉だ。言葉なんていくらでも作れる。目的のためには手段なんて選ばない。男なんてみんな…… ササヤンくんは、そうならないように気を遣ってくれたのだ。私を裏切らないために。 「俺はさ、夏目さんのことが好きだよ」 「っ!」 「……ちゃんと伝わってる?」 ぶんぶんと首を縦に振る。口を開いたら泣いてしまいそうだった。 「ん。よかった」 微笑みながら、私の頬に手を伸ばす。その手はひんやりと冷たくて、けれど缶のあたたかさが微かに移っていた。 「……私の好きも、ちゃんと伝わってますか?」 触れていた手が、一瞬びくりと震える。 「……なんていうか……夏目さんって、不意打ち得意だよね……」 「?」 うーん……まあいっか、と独り言を洩らすと、そのまますっと立ち上がる。 「ちょ、まだ答え聞いてないですよっ」 「ええー、わかってるくせにー」 「ササヤンくんっ! もー……」 待って下さいよー、と、待ってくれているのを承知で追いかける。気付けば心も身体もあったまっていて、頬に落ちる雪が心地よいくらいだった。 12.12.24. 書きたいこと詰め込んだらびっくりするくらい会話ばかりになってしまいました そのわりに雰囲気勝負でお願いしますな話になってしまいましたが 当たり前のように夏目さんを気遣うササヤンくんが大好きなんです この子達いつになったら付き合うんですか 付き合っても最初の頃は呼び方変わらなそうですよね →back |