君には見えない | ナノ


君には見えない




「もうすぐ春の羊祭りね」
 ウィンリィが、大量の洗濯物を抱えて言う。昨年も一昨年も、僕たちは三人で祭りを見に行った。旅を再開して、またこの時期に帰ってきたのは偶然だったけれど、「今年もみんなで行けるかな」と呟くウィンリィは本当にうれしそうだった。ウィンリィと兄さんは恋人同士になったわけだけど、それでも彼女が幼なじみという関係を大切にしてくれているのがわかって、僕もうれしくなる。兄さんには悪いけど、ウィンリィが僕にとって大切な幼なじみであることには変わりない。まぁ、兄さんもそれを理解しているから、この関係を続けられるわけだけど。
 真っ白なシーツを広げて干していく。ワンピースとポニーテールが風になびいて、なんだかそれだけで絵になっていた。この姿を見られない兄に心の中でごめんねと呟きながら、アルフォンスはその後ろ姿をじっと見つめていた。ウィンリィは上機嫌で、鼻歌を歌っている。珍しいな、と思いながら理由を考えようとして、すぐに思い当たった。
(兄さんが帰ってくるから、か)
 わかりやすい態度に、思わず笑いが込み上げてくる。決してバカにするつもりはないけれど、それにしたって予想以上だ。ウィンリィが、こんなに女の顔をするなんて。
 クックッと笑いを堪えていると、それが聞こえたのか、不思議そうな顔でウィンリィが振り向く。
「アル? どうかした?」
「いや……なんでもないよ……フフッ」
「?」
 変なアル、と口にしながらも、ウィンリィは作業を再開した。一枚一枚、丁寧に広げられていく。今日は天気がいいから、取り込む頃にはしっかり乾いているだろう。
(……もしかして、それも兄さんが帰ってくるのに合わせた、とか?)
 だって、ほら、シーツの枚数が。
 気付いてしまうと、それはなんだかくすぐったくて。自分の兄がこんなにも愛されているのだと思うと、恥ずかしいようなうれしいような。見ているこっちまで幸せになってくる。
「……ねぇ、ウィンリィ」
「なあに?」
「兄さんが帰ってくるの、そんなにうれしい?」
「なっ……!」
 振り返ったウィンリィは、僕の言葉で顔を真っ赤にした。――ああもう。だめだ、今度こそ笑いが止まらない。
 僕は久しぶりに、思いっきり声をあげて笑った。素直なウィンリィがおかしくて、かわいくて。こんなにも兄さんのことを大事にしてくれているのが、なんだか誇らしくて。そんな二人と幼なじみでいられることが、幸せで。
「……いつまで笑ってんのよ」
 アルのバカ!と頬を膨らませるウィンリィに、ごめんごめん、と口では謝るけれど。でも、やっぱり、うれしいから。
(残念だね、兄さん)
 ウィンリィにこんな表情させられるのは、兄さんしかいないのに。その兄さんが見られないんなんて。
 だから僕は、嬉しさと、ちょっとした優越感で、思わず笑ってしまうんだ。




12.03.29.
泡さんからのリクエストで、エドウィンでした
ロックベル家で「いつまで笑ってんのよ」との指定だったので、普通にエドに向かってのセリフとして考えていたのですが、気付いたら兄さん登場してなくてすみません
でも恋するウィンリィってかわいいと思うんだ
エドにしか見せない表情はもちろんあるけど、周りにしか見せない表情だってもちろんあると思うんだ
リクエストありがとうございました!




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