小さな未来を描く | ナノ
小さな未来を描く




 バタバタと勢いよく足音が近付いてくる。それに気付いたウィンリィが玄関に辿り着くよりも先に、ドアが開いた。
「ただいまっ!」
「しーっ!静かに!あの子たちもう寝てるんだから!」
「わ、悪りぃ……」
 もうすぐ日付が変わるというのに大きな声を出した彼を、ウィンリィは小声で咎めた。それから一拍置いて、おかえりなさい、とも。
「そっかー。そうだよな、こんな時間まで起きてられるわけねぇか」
「一応がんばって起きてようとは思ったみたいなんだけどね。そのまま机で寝ちゃいそうだったから、早く眠らないとサンタさん来ないよってあたしが言ったの」
 ね、サンタさん?
 ウィンリィは目を細めて笑った。エドワードの手元には、普段持ち歩いている鞄の他に、大きな袋が二つ。プレゼント用にかわいらしくラッピングされたそれは、子どもたちのためのもの。恥ずかしがり屋の彼が、まるで自分のことのようにはしゃぐ、それ。
「……あんたって、ホント親馬鹿よね」
「……なんだよ、急に」
「だって、あたしへのプレゼントは恥ずかしがるくせに、子どもたちのためならこうやって仕事も早く終わらせて楽しそうに帰ってくるじゃない」
「それは」
「無神論者のくせに」
「だって」
「……ふふ。ごめんごめん、そんな顔しないで?」
 あたしは嬉しいんだから。
 そう言って微笑む彼女の声に、エドワードもホッとして笑みを返した。はしゃぐのも無理はないのだ。旅や研究を完全にやめたわけではないエドワードは、必然的に子どもたちに会える日も毎日ではない。だからこういうイベントは――昔は特別楽しみではなかったけれど――子どものために何かしてあげられる、特別な日なのだ。
「よかったね、クリスマスに間に合って」
「……ああ」
 そして、からかいながらも、それを理解してくれるウィンリィが隣にいること。それが本当に大切で……だからこそ二人の間にできた子どもを、本当に愛しく思う。
 リビングへと向かう前に、先に子どもたちのベッド際にプレゼントを置いた。心地良さそうに寝息を立てる二人の頭を一撫ですると、自然と口元に笑みが浮かんだ。明日は、家族四人でゆっくりと過ごそう。たくさん遊んで、笑って。小さなツリーを、今更だけど飾り付けて。
 リビングに戻ると、ウィンリィが食事を用意して待っていた。「置いてきたの?」「おう」そんなやりとりをして、いつもなら向かいの席に座るところを、隣に腰掛ける。不思議そうに見上げてくる彼女に、一瞬だけまごついた。
「……子どもたちにやるのとおまえにやるのとじゃ、なんとなく違うんだよ……」
 ウィンリィに指摘されたとおり、今でも彼女にプレゼントを渡すのは恥ずかしい。想っていることを伝えるのは恥ずかしくて、物だけでは伝わらないとわかってはいても、物でさえ恥ずかしいのだからどうしていいかわからない。小箱を渡す手がぶっきらぼうになってしまうのは、性格なのだからしかたがない。プレゼントと顔をまじまじ見比べられると仏頂面になってしまうのも、もう何度繰り返したかわからない。いつまでたっても慣れないこそばゆさは、相手がウィンリィだからこそで。
「うそ……びっくりした……」
 ウィンリィは、自分にもプレゼントがあるなんてまったく考えていなかったのだろう。大きな瞳をさらに丸くして、渡された小箱を大切そうに胸に抱えたまま動けずにいる。エドワードにとってはその反応こそが予想外で、ようやく緊張感から解放されて笑った。
「メリークリスマス、ウィンリィ」
 明日、子どもたちは大きなプレゼントを抱えて元気に起きてくるのだろう。それを迎えるウィンリィの手首には、きっと新しいブレスレットが輝いていて。そんな幸せな朝を容易に描けることが、きっと今は大切な幸福。




11.12.27.
クリスマスからは盛大に遅刻しましたが、念願の家族ものが書けて満足です
ずっと一緒にいてあげられるわけではないからこそ、一緒に過ごせるときは子どもにデレデレなエドのことを、ウィンリィは「いい父親だ」ってきちんと認めてくれると思います
そんな妻をもててエドは本当に幸せを感じていると思うのです




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