その理由を | ナノ


その理由を(同級生パロ)




「お似合いじゃないの」
 後ろからツンとした声がして、なんとなく振り返った。背後から睨んでくるのは、同じクラスの猿飛だ。
「あら、猿飛さん。何か御用?」
「だから、お似合いだって言ってんの。あなたとさっきの男」
「……土方くんと?」
 別に用なんてないわ、と彼女は相変わらずツンとした態度を崩さない。突然廊下で声をかけてきたかと思えば、一体何を言い出すのか。
 なぜか彼女は、やたらと自分につっかかってくる。敵に回すようなことをした覚えはないのに、どうしてそんな態度を取られなくてはいけないのか。そういつも思っていたが、どうやら今日は用件が違う。態度は変わらないけれど。
「いいじゃない。真面目だし、背も高いし、部活にも熱心で。それにさっきの様子じゃ、お互い満更でもないんじゃないのォ?」
 勝手に捲し立てられることには慣れていたが、話の筋が見えない。どうして土方くんの話になっているのだろう。満更でもないって、どういうこと?
「……つまり何が言いたいのかしら?」
 わけがわからず呆れた口調で尋ねると、猿飛からはとんでもない返事がきた。「だから、付き合っちゃえばって言ってんの」。しかも、こちらをバカにしたような調子で。
「……は?」
 突然の単語に目を見張る。しかし口調はどうあれ、彼女は本気でそれを言ってきたようだ。でも、付き合う?誰と誰が?
(……私と、土方くんが……?)
 人から言われて「はいそうですか」と了承するわけでもないので、特に気にするつもりはなかった。ただ、どうしてそんなふうに言われるのか。それも、猿飛に。それだけは気になってしまったので尋ねようとしたのだが、気付けば彼女はまた後ろを向いて歩き出していた。
 この一瞬の出来事を、いつものようになんでもないこととして流せればよかったのだ。しかしその後、放課後まで、言葉の意味を気にしてしまっていた。おかげで授業中もぼーっとしてしまい、仲の良い友達にまで心配される始末。だけどなんとなく理由は言えなくて、なんでもないわと笑って誤魔化していた。どうして気になってしまうのかもわからないまま。



 自転車置き場まで着くと、同じクラスの坂田銀時がいた。だるそうにポケットの中に手を突っ込んでいるのは、おそらく鍵を探しているのだろう。その様子を見ながら歩いていると、彼も私に気付いた。ポケットから右手だけ取り出して、挨拶を交わす。
「今、帰り?」
「ええ」
「ふーん……」
 興味無さげに、会話をしながら探り当てた鍵を自転車に差し込む。ガチャリとそれが開くと、スムーズな流れでスタンドを解除した。夏の終わりが近付き、この時間帯には暑さも和らいできている。自転車の車輪が回る音と、虫の声が、やけに寂しく感じた。
「……帰るんじゃねーの?」
 二、三歩進んだ彼は、立ち止まったままの私に向かって振り向き様に声をかける。一緒に帰るという発想はなかったのに、まるで彼はそれを当たり前だというように促してきたのだ。
「……うん」
 ゆっくりと歩き出し、隣に並ぶ。それを確認すると、坂田くんも再び歩き始めた。二人で帰るのは、高校生になってからは初めてのことで、なんだかとても不思議な感じだ。駐輪場で出くわしたクラスメイトと一緒に帰るのは自然なことで、特別意識するほどのことではないのに。わかっているのに、変に意識してしまう。秋が近付いている空気と、自転車が立てる規則的な音。それがなんだか居心地悪い。
「……今日、いつもより静かじゃん」
 ああ、この人も気付いていたのか。クラスのことなんて気にかけていないような、マイペースなこの人にさえ。
 思っていたよりも疲れていたのかもしれない。それか、もう誰かに言ってしまいたかったのか。一日中隠してきたことを、なぜかぽつりぽつりと零してしまった。話しながらも、なんてくだらないことを言っているのだろうと自分で思う。どうしてそれが気にかかるのか。気にかけてしまったのか。どうして、話してしまったのか。
「猿飛さんもバカね、私と土方くんがお似合いだなんて。彼がずっと他の人を見てるのは明らかじゃない!」
 それは愚痴なのか何なのか、少しだけ語尾が荒くなる。土方の想い人は明白だ。幼なじみの同級生、沖田ミツバ。儚げな印象を与える彼女を見つめる土方の目は、わかりにくいもののやさしさが滲んでいる。そして彼を見つめる彼女の視線も、また……
「へー。よく見てんじゃん、あいつのこと」
 案外、さっちゃんが言ってることも当たってんじゃねーの?なんて言ってくるものだから、思わず睨んでしまう。
「よく見てるって……よく見てなくたってわかりやすいでしょう?」
「ま、それはそうだけど」
 でもおまえ、自分に向けられた視線には鈍いのな。
 ふいに呟かれた彼の言葉に、私はきょとんとして彼を見上げる。それは、どういう意味?歩みを止めないままの彼の視線もまた、前を向いたままだ。
「なんでさっちゃんがおまえにつっかかるかとか、男の名前出すかとか。……なぁ、ホントにわかんねェ?」
 立ち止まった坂田くんの、真剣な瞳が私を射抜く。見たことのない視線に、身動きが取れなくなった。人気のない帰り道。夜が近付いてきた時刻。それから、秋のにおい。私の乾いた唇が音を発する前に、腕を取られ少しだけ強引に引き寄せられた。視線に射抜かれたまま、届いた声は。
「好きなんだけど」
 虫の音は、止んだ。




11.08.29.
いつもお世話になっているグレコウの和瀬ゆずは様のお誕生日祝いに書かせていただきました
絶対に、絶対に同級生パロにしよう!と思っておりまして(←私が銀妙同級生パロにハマったきっかけのサイト様なのです)
久々すぎてどんなシチュエーションがいいのか迷い、書いたら書いたでなぜ唐突に坂田くんが告白してしまったのかわかりにくい展開になるという始末ですが、やっぱり同級生おいしいです
ゆずちゃん、お誕生日おめでとう!これからも楽しみにしてます!




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