すたでぃ


「明後日の6時間目は小テストな。ちなみに赤点のヤツ補習あっから。じゃ」


…いや何ソレ聞いてねーぞ。

軽く言って教室を出て行こうとする数学の小池の後頭部を睨みつける。

が、小池は何事もなかったかのように教室を出て行った。


(ぜってー赤点だろ俺!!!)


机の中をあさると、ぐしゃぐしゃになった前回の小テストを発見した。

右下には赤くでかでかと書かれた26点という文字。

このときはラッキーだったな。補習なかったし。


「うわお三井くん…、26点って…」


右斜め上から俺を哀れむような女の声が聞こえた。

顔を上げると、悲しそうに眉をひそめる我がクラスの委員長の顔があった。


「なんだよその顔。頭にくるんだけど」

「イヤだって…26点って…。これ平均70点だったよね」

「うっせーな!コレも個性だよ!」

「なんちゅう個性ですか」


委員長の綾部こころ。

胸にノートを何冊か抱えている。どうやら宿題を集めているようだった。


「で、今回の小テストだけどさ!補習困るでしょ?せっかく部活頑張ってるのに」

「ああ。困る、くそ困る」

「教えようか?私数学って結構得意なんだ」

「…マジか」


ニコニコと笑ってる綾部の顔を見る。

…実を言うと、俺は綾部のことを好きだったりする。

コイツは他の女子と違う。そこが良い。

そんなヤツと二人で勉強なんて、なんて良いシチュエーション!とか考えてる俺は何だ。


「うん。朝休みにでも教えるよ?明日朝練ある?」

「ねーから、頼む」

「じゃ、気合入れて教えるからね!」


綾部の長い髪が揺れた。

それと同時に良い匂いが漂ってくる。


「で、三井くん宿題やってきた?」

「やってねー」

「テストがそれならせめて平常点で稼ぎなよ…」


あ、確かに。と心の中では思う。

でも宿題っていつやれば良いんだ?部活終わって家帰ったら、飯食って風呂入ってさっさと寝る。

中学のときはちゃんとやってたけどな。いつやってたんだ昔の自分。


次の日の朝。

俺の机の上には数学の教科書とノート、筆記用具。

目の前には笑顔の綾部。

…そして何故か大量のうめぇ棒。


「なんでうめぇ棒?」

「ご褒美だよ。この問題を1問正解するごとにうめぇ棒一本」


ご褒美がうめぇ棒って…色気ねーにも程があるな!


「それではまずここの問題を解いてくださいな」

「おう」


それから約5分。俺は教科書とにらめっこを続ける。

外で野球部が朝錬をしている音が頭に響いていた。


「…もしもーし、三井くーん?」

「何だ」

「わからない?」

「わからねー…」


だったら早く言ってよー、と言って綾部は解説を始めた。

すごくわかりやすいのもそうだけど、その声をずっと聞いていたくなる。


「オイ三井!聞いてんのか!」

「聞いてるよ。つか小池のマネ似てねーからもうやるな」


俺の言葉に綾部はムスッと顔を膨らます。

思わず膨らんだ頬をつつくと、空気が抜けた風船のように萎んでいった。

…面白い。それに柔らかい。


「三井くん?そんなに私のほっぺが好き?」

「あ?」

「あ?じゃない!ツンツンやめれ!」

「…悪い」


どうやら、無意識に綾部の頬をつつきまくっていたようだ。

慌てて手を膝に置き、再び彼女の声に耳を傾け始めた。



―――――――………



「おおっ!三井くん凄い!凄いよ!」


30分後、ノートの問題はほぼ丸で埋め尽くされていた。

え、何コレ。何があった?

綾部も目を大きくして驚いてるが、それ以上に俺が驚いていた。


「この短時間でここまでとは…」

「まぁ天才だからな」


自分の言葉に、赤毛の後輩が頭をちらついた。

…まぁそれは良いとして。

綾部曰わく、「基礎がちゃんとなってたんだよー」とのこと。

基礎を作ってくれた昔の自分にマジ感謝。


「えーっと、8問正解だから、8本か。ほら、持ってけドロボー!」


綾部は机に大量のうめぇ棒を並べ始めた。

…ゴーヤ味とかキュウリ味とかはやめておこう。つかスナック菓子に何故このチョイス?


「個人的なオススメは納豆味だよ!なんていうか、ナンセンス?」

「いや意味わかんねーし。…んじゃ、それくれ」

「オッケー。他は?」

「たこ焼きとチーズと…」


メジャーな味を選ぶと、綾部は「つまんない!」と不満そうだった。

…何がつまらない?


「はいっ!どーぞ」


8本のうめぇ棒が俺に差し出される。

それを普通に貰おうとした俺だったが、それだけじゃつまらないことに気づいた。


「なぁ、食べさせてくれよ?」


だから、こんなことを言ってみた。

朝早くからこんなに勉強したんだ。

このくらいは許されるだろう。

…綾部の顔は真っ赤だったが。

そしてわたわたと慌て始めた。

「私が、三井くんに、あ、あーん!?」

「そ。あーんしろ」

「何故っ!?君には立派な腕が着いてるじゃないか!」

「何言ってんだ。高校生の御褒美っつったら、これだろ?」

「そうなの!?」

「そうなの」


俺のデタラメに渋々納得したのか、綾部はうめぇ棒の袋を開けた。

それを恐る恐る、俺の口に持ってくる。


「あ、あーん!」

「あ」


パクッ。

…なんだコレ。ネバネバする。


「どう?ナンセンスでしょ?納豆味!」

「…ナンセンスじゃねーっ!口の中気持ち悪くてたまらんわ!」


俺はそのあと、あーんのトキメキより納豆のネバネバに苦しむことになった。

ちなみに小テストは満点だった。


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