君と夜の校舎
困った、困った!すごく怖いです!何コレ!
ただいま、20時25分。
私は夜の校舎に一人忍び込んでいる。
…明日提出の宿題を忘れてしまったからであって、決して「気になるあの子の縦笛を舐めちゃうぞ★」なんてしにきたわけじゃない。
それにしても、夜の校舎というのはなんて不気味なんだろう。
ていうか、昼に私たちが授業を受けてるそれと同じ場所なのだろうか。
前後左右に注意を払い、恐る恐る階段を上っていく。
そして自分の教室のある階へと着いた。
ぽん。
…その瞬間突然、誰か肩を叩かれた。
「うきゃああああああっ!出たああああああっ!」
お化けが苦手な私は大パニックだ。
とりあえず逃げることにする。
廊下を猛ダッシュして教室へと向かう。
アレ、もしかして下に逃げた方が良かった?
「あぁ、私の馬鹿馬鹿馬鹿!」
「ちょっと待てって!」
「ちょ、オバケさん足早い!!」
「誰がオバケだ馬鹿!」
オバケさんの声がすぐ後ろから聞こえる。
いつも聞いてるような声だけど、私は騙されないよ!
そういえば、こういうとき絶対に振り向いちゃいけない。って、よくあるよね。
…あ、振り向いちゃった。
否、振り向かされちゃった。
私はオバケさんに追いつかれた挙げ句、頭を鷲掴みにされ無理矢理そうさせられた。
そこにいたのは、オバケさんより恐ろしく私を睨む同じクラスの三井くん。
「で、出た…」
「何が出たって?」
私の頭を掴む手に力が入る。
「痛たたたたたた!み、三井くんが出た!!」
「オバケさんはどこだ?あ?」
「か、帰りました!」
「ぶっ、綾部って意外と怖がりなんだな」
私を怖がらせた元凶の三井くんは面白そうに笑っていた。
「で、どうしたんだ?こんな夜遅くに」
「宿題忘れちゃって!家に帰ったらカバンに入ってなくてびっくり。三井くんは?」
「俺は部活終わって帰ろうとしたら、綾部が見えたから後着けてきた。ついでにやる気のなかった宿題を取りに行く」
「あ、そうなの。なんて人騒がせな!つか宿題はちゃんとやろうね!」
教室に入った私と三井くんは自分たちの机に向かった。
二人ともゴソゴソと机の中を探る。
あったあった。数学の小池先生宿題忘れるとうるさいからなぁ。
宿題をカバンの中に入れ、三井くんの方へ行くと何かを見つめている。
可愛い文字が並ぶピンク便箋。
その内容をコッソリ拝借させてもらう。
「…ほほう、ラブレターかね。青春じゃのう」
「うわっ、てめ、いつの間に!」
私が背後から声をかけると、三井くんは慌てて手紙を隠して顔を上げた。
「入ってたの?誰から!?」
「…2組の三枝」
三枝さんは学年でも可愛いと評判の女の子だ。
放課後、三枝さんがコソコソと三井くんの机にラブレターを入れるのを想像する。
…やっぱり可愛いな。
私がやったらただの不審者だけど。
そういえば三井くん、最近モテてるな。
まぁ元ヤンでスポーツ少年でイケメンとくりゃ、女の子もほっとかないだろう。
「やっぱりOKしちゃう?」
「んなわけあるか。つかなんでそんなに目を輝かせてんだ」
それは女の子はみんな恋バナが好きだからだよ!
「って、え!断っちゃうの!?」
「好きでもない女となんで付き合わなきゃなんねーの」
三井くんはラブレターをカバンの中にとっととしまってしまった。
三井くんははぁ、と小さくため息をつくと私の顔を見つめてきた。
突然のことに、驚いて目がそらせなくなった。
三井くんはやっぱりイケメンだった。
「あのさ、今週の日曜日に試合あるんだ」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたね」
「…見にこねー?」
「えっ!あ、うん!行くよ、行く行く!」
三井くんにそう誘われたのは初めてで、驚いたけどすごく嬉しかった。
彼は彼で何故か安心したようにもう一度ため息をついた。
「じゃ、帰るか」
「うん!」
私と三井くんは教室を出て、廊下を並んで歩く。
「綾部の可愛いとこ見ちまったな。あんな怖がりなんて」
「アレは三井くんがいけないよ!肩叩く前に声かけてよ!」
「は?俺肩なんか叩いてねーぞ?声かけようとしたらお前が急に絶叫して逃げたんじゃねーか」
「う、嘘だ!だって確かに…!」
三井くんに反論しようとした私の声が止まる。
前に、何か人影が見える。
最初は暗くてよく見えなかったが、月明かりに照らされて徐々に姿を表した。
…足のないおさげの女の子が、私たちのことを笑いながら見ていたのだ。
「み、三井くん、アレ…」
「綾部、逃げるぞ!」
私の手をとって三井くんは走り始める。
廊下を逆方向に猛ダッシュ。
私は恐怖で泣き叫んでいたけど、三井くんはなんだか楽しそうだった。