名は体を表す


ある日の図書室にて、バスケ部の部員たちの公欠を取るために必要な書類を、何故か全く無関係な私が書かされていた。

バスケ部顧問の鈴木先生に頼まれてしまったのである……委員長という立場から、色々な先生に顔を覚えられる。それは有難いと思うが、こうして面倒事を押し付けられてしまうことも多々あった。

まあ多分私が頼まれると断れない性格だって先生たちもわかって頼むんだろうなー。だって、他のクラスの委員長が雑用やってるの見た事ないもん!……ああ、何だか悲しくなってきた。

ボールペンで部員の名前を紙に書く。そう大変な作業ではないが、3枚の用紙に20人弱居る部員たちの名前を書いていくのは正直億劫だ。

1番上の欄に赤木剛憲と書く。こうして文字で改めて見ると、赤木くんって感じのたくましい名前だな。

そしてその下の欄には木暮公延と書いた。大らかで優しそうな雰囲気が名前にまで溢れている気がする。

次々に部員たちの名前を書いていくのと同時、その名前について深く考える。


「桜木花道……」


なんていうか、とてもおめでたい名前だな。(決して馬鹿にはしていない!)


「お呼びでしょうか!!」

「うわぁっ!!」


突如背後でした大きな声に肩を揺らす。

噂をすれば影というのはまさにこのことだ。桜木くんがふんぞり返って私のすぐ側に立っていた。


「あっはっは!!」

「しーっ!ここ図書室!」

「あ、失礼しました」


そもそも、何故彼がここに居るのか。桜木くんと図書室なんて全く接点が見えてこない。


「俺図書委員なんスよ」

「嘘だ……」


思わず本心を漏らしてしまった。しかし桜木くんには聞こえなかったようだ、良かった。

そして私が再び手を動かし始めると、彼は私の手元を覗き込んで不思議そうな顔をした。


「なんでこころさんが書いてるんスか?」

「わかんない」

「そうスか」


そこ納得しちゃうんだ。あまり頭を使わないところがとても桜木くんらしい。

しかしまあ、本当に図書委員の仕事をする気があるのだろうか?彼は私の隣に腰を下ろすと「はだ●のゲン」を読み始めた。


「……そういえば、私のクラスの図書委員って誰だったかな」

「俺だ」


私の呟きに返事をした低い声はいつも聞いてるあの声だった。


「おうミッチー!」

「嘘だ……」


親指で自分をビシッと指した三井くんが立っていた。

桜木くんのときと同様、思わず本心を漏らしてしまったが、やはり三井くんには聞こえなかったようだ。


「俺の居ない間に勝手に決められてたんだよ」

「……あのときはまだグレてたもんね」


まあ当時不良だった彼に図書委員を押し付けるうちのクラスもアレだが。

三井くんは桜木くんとは反対側の私の隣に腰を下ろすと、不思議そうに私の手元を覗き込んだ。


「なんで綾部が書いてんだ?」

「わかんない」

「そうか」


そして三井くんは「サザ●さん」を読み始めた。

ーーさっきからやり取りにデジャビュを感じるのは気のせいではないだろう。


「ところで!!」


顔を上げた桜木くんが言った。やはり声が大きいので私は慌てて彼の口を塞ぐ。


「むごっ」

「もうちょっとボリューム落として!」

「す、すいません……さっきは何故俺の名前を?」


ああ、そのことか。私は「桜木花道」と私の字で書かれた書類を彼に見せ笑う。


「良い名前だよなって思って」


すると桜木くんは目をうるうるとさせ、「あ、ありがとうございます!!」と叫んだ。だからここ図書室だってば!


「綾部」

「何、三井くん」

「俺の名前はどう思う?」


何だそりゃ。真剣な顔をして聞いてくる三井くんに対してそう思ったが、ちょっと考えてみる。


「なんだミッチー。この天才と張り合うつもりかね」

「いや名前に天才関係ねーだろ」


そんな彼らのやり取りが両側から聞こえてくる中、書類に三井寿と書いてみた。

ーーしかし何も思い浮かばない。期待に満ちた三井くんの目に押されて、とりあえず何か言わなくてはと焦った。


「三井寿……ことぶき……寿退社……出来ちゃった結婚!!」

「俺にはお前の思考回路が理解できない」

「あーはっはっは!!さすがこころさん!!」


私の回答に落ち込み三井くんと大笑いする桜木くん。……私も大概馬鹿だ、もう少しまともなことを言えないのか。


「う、うーん、えっと、三井くんの名前、私大好きだな〜」


苦し紛れに言い放ったその言葉が、三井くんの表情を変えた。


「そうかそうか!サンキューな!」


こんな答えで良かったのか……私はとりあえずホッとした。桜木くんは何故か悔しそうな顔をしていた。

ーーその後、三井くんと桜木くんに手伝ってもらってバスケ部部員全員の名前を全ての用紙に書き切った。


「じゃあ2人とも、私の名前はどう思う?」


冗談混じりにそう聞く。彼らは顔を見合わせ、こう言った。


「可愛い」

「可愛いっす」


真顔でそんなこと言われると照れるじゃないか……私は小さな声で「ありがとう」と言い、書類を彼らに押し付け逃げ出した。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -