嫉妬円舞曲


最近、三井くんがみんなの前でよく笑うようになった。

クラスにも溶け込めてきているし、先生から彼のお守りを任せられていた私としては、それはとても嬉しいこと。

……だけどそんな彼を見ていると、何故だか妙にもやもやしてしまって、自分が嫌になるときが多々ある。


「三井くんってさ、近寄りがたいと思ってたけど全然そんなことなかったよね」

「ねー!しかもバスケ強いし、顔もかなりイケメンだし!」


クラスの女の子たちがそんな話で盛り上がっているたった今、私のもやもやはピークに達していた。


――本当に、なんて独占欲の強い人間なんだ。


私は私自身に対してそう吐く。嗚呼ヤダヤダ。一番嫌いなタイプの女は私だ。

憂いながら自販機で缶ジュースを1本買い、一気に喉に流し込む。ぷはっと息を吐き出すと、嫌な気持ちも外に吐き出せたらなんて思ってしまう。

私は空き缶を自販機の隣にあるゴミ箱に、乱暴に放り込んだ。


「あ、綾部さん」

「……木暮くん」


名前を呼ばれ顔を上げると、心配そうに私を見る木暮くんの姿があった。

ちなみに、彼と私は去年同じクラスだった。


「どうかした?物に当たるなんて、綾部さんらしくない」

「当たってるって、よくわかったね」

「いや、いつもと雰囲気違ったからさ」


とりあえず座ろうか、と近くにあったベンチに座らせられる。

……こりゃ話を聞かれる感じだな。私何も言ってないのに。

そんなお節介が何故か許されちゃうんだ、木暮くんは。


「三井?」

「え?」

「三井のことで悩んでる?」


……鋭い。さすが湘北のお母さんの異名は伊達じゃない。

私がコクンと頷くと「やっぱり」と言って笑った。


「アイツになんかされたの?」

「いやっ、何も!三井くんは悪くないんだけど……」

「だけど?」

「……もやもやするんだ。三井くんが色んな子と楽しそうにしているのを見たりすると。ほら、今までは私と一部の子としか話さなかったから」

「うん、それで?」

「そんな感情になる自分が嫌で、イライラしちゃって、もうどうしたら良いかわかんなくて、さっきなんか物に当たってるところ木暮くんに見られちゃうし、情けない」


嗚呼、なんだか泣けてきた。

木暮くんは何も言わずに私の背中をさすってくれている。


「うっく、う……三井くんは私なんかのモノじゃないし、みんなと仲良くできるようになったのはとても嬉しいんだけど。やっぱり駄目で」

「そっか。うん、綾部さんはきっと三井のことが好きなんだよ」

「うぇ……?」


思わず涙も止まる。木暮くんは一体、何を言い出すんだ?


「す、鍬?」

「嫉妬してるんだよ、三井をみんなに取られちゃって」


ニコッと笑う木暮くん。……あれれ、私の顔、ものすごい熱いよー!


「ま、三井にとっても綾部さんは特別な存在だから、あんまり悩まなくても平気だと思うぞ」


私は熱くなった顔を手で冷やしながら木暮くんを見た。何事もなかったかのように「ん?」と返される。

――丁度その時。どんどんと音を鳴らせてこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。


「あっ、三井!」


木暮くんが片手をひらひらと振りながらそう言う。えっ嘘でしょ!?そう思って見ると不機嫌そうな顔をした三井くんが確かに近付いてきていた。

私は泣きっ面を見られたくなくてすぐさま俯く。


「あっ、三井!……じゃねーよ!綾部と何やってたんだ」

「ちょっとな」

「ちょっとって何だよ。……お前が泣かしたのか?」

「んなわけあるか。じゃあな2人とも。俺、次、物理の授業移動だから」


「えっ、ちょ、待っ!木暮くん!」


私の制止も虚しく、木暮くんはとっとと教室に戻って行ってしまった。……やっぱり何なんだ、あの男。

取り残された私と三井くん。三井くんは今まで木暮くんが腰掛けていた私の隣にドカッと座る。


「何があった」

「いや、別に何もナイヨ」

「嘘付け!じゃあなんで目が赤い!」

「ゴミが入った」

「〜〜〜〜だあ!俺じゃ不満か!?」


三井くんは両手で顔を覆い俯いてしまった。え、何この子どうしたの。

しばらくして指の間からちらっと私のことを見てきた。上目遣いは卑怯だと思う。


「俺の前じゃ泣けねーのか!?俺じゃお前の相談相手にはなれねえのかっ!?」

「……は」

「くそっ!いつも一緒に居るじゃねーか!お前は俺の話聞いてくれるくせによ、」


三井くんは大きな声でそう言う。

私はキョトンとしてしまって、だけど先程木暮くんが私に言った一言が脳裏に浮かんだ。


「それ、嫉妬?」

「あ゙!?」

「木暮くんに嫉妬してるの?」


三井くんは私の言葉にフリーズし、顔を真っ赤にした。先程の私に負けず劣らず。

そして何かを悩んだ後、深く深呼吸をして、こう叫んだのだった。


「そうだっ!嫉妬だ、何が悪い!」


――照れている三井くんの姿が何だか可笑しくて。

嫉妬してくれたことが凄く嬉しくて。

もやもやした嫌な気持ちは、いつの間にか消え去っていた。


「ありがとう、三井くん」

「お、おう?」


――後日、木暮くんにもお礼を言いに良くと、「お前たちって本当面白いよな」と笑われた。えー何ソレ。


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