お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞっ!
「トリックオアトリート!」
「……あ?お前もか綾部」
「そ、そんな怖い顔しないでよ!ごごごごごめんなさい」
「いや、今日学校来てから桜木やら宮城やらに散々絡まれたからな……条件反射でつい。スマン」
「うわあ……彼ら二人に猛烈に絡まれるなんて想像するだけで圧倒されちゃう」
「ああ、朝っぱらから疲れたぜ」
――そんな三井くんにはコレをあげよう。私は紙袋の中からハロウィンカラーにラッピングされた小袋を取り出した。
「だいたい高校生にもなってハロウィンなんて、くだらねー」
……じゃあコレはいらないのですね、ショック。
しょぼんとした表情を浮かべながら、小袋を紙袋の中に戻す。
三井くんはそんな私の様子に気が付いたのか、見るからに慌て始めた。本当良い人だよなー。
「やべえ急激に腹減ってきたぞ」
「なんて都合の良い腹……ではトリックオアトリートと言って私に懇願しなさい」
「……懇願する意味じゃねーだろ」
「まあ気にしない気にしない」
「それ言わなきゃ駄目なのか?」
「当たり前!ハロウィンの代名詞だよ!」
「……っ」
「何照れてるの、三井くん!ほら、ほらほらほら!」
「うるせーな!照れてねーよ!」
「……」
「んなしょぼんとすんな!言や良いんだろ!と、トリックオアトリート!」
ニコッ。私は満面の笑みを浮かべ三井くんに小袋を渡した。
小袋の中身は前に三井くんにあげて喜ばれたバナナケーキ。特別に一番上手く作れたヤツをプレゼントしてあげた。
「ち、ちなみに、委員長だからってクラス全員に配ったりしてるワケじゃないよ!」
「マジかよ、そりゃありがてぇ。サンキュ。……うお、美味そう」
「自信作だよ!で、三井くん!」
「何だ?」
「トリックオアトリート!」
「……振り出しに戻ったな」
「おう!」
「悪ィけど、今何も持ち合わせてねーんだ。桜木と宮城に全部持ってかれた」
「そ、そんなー!」
涙を浮かべる私を見て三井くんはいやらしく笑う。ムカッ。
「……お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ、か。悪戯されるのも悪くねーな」
――おいおい何を言い出すのかと思えば!嗚呼、形勢逆転だ!
私は今までの言葉責めマシンガンが嘘のように「いや、やっぱり訂正します」と言うので精一杯。
三井くんはというとバナナケーキを頬張りながら、けらけらと笑っていた。