MY HERO!!


夜7時過ぎの路地裏。

私は、世の中では不審者と呼ばれるだろう男と出会ってしまった。


「君、可愛いね……」


そんなことを言いながら私に近付いてくる男。

はあはあと荒い息。額には脂汗。

恐怖で足が動かなくなる。

だが何か抵抗をしなければ。


「きゃああああああっ!!」


と、私は思いっきり叫んだ。

だが男はひるむ様子もなく、私の肩を掴んだ。

……最悪だ。泣けてきた。


「おい、テメェ、何やってんだよっ!」


突然、路地裏に響く声。

気付くと男は殴り飛ばされていた。


「み、三井くん……っ!」

「って、綾部じゃねーかよ!?大丈夫か!」

「うん、平気……」


男は起き上がると三井くんに飛びかかった。

ここからは阿鼻叫喚。

殴り殴られ蹴り蹴られ。

しばらくして、男は諦めたのか、逃げるように去っていった。


「三井くん、本当、ごめんね……っ」

「俺が勝手にやったことだし、気にすんな」

「気にするよ!喧嘩強くないのに!!」

「余計なことは言うな」


三井くんは体中傷だらけ、ボロボロだ。

……これはすべて私のせいなわけで。

我慢していた涙がボロボロと出てくる。


「……怖かったな。もう大丈夫だから、泣くなよ」

「違う」

「あ?」

「私のせいで、バスケ出来なくなっちゃったとか、そういうのあったら、やだ……!」

「……これでバスケが出来なくなるとでも」

「わ、わかんないじゃん!……っ!」

「わかったから、もう泣くな」


三井くんは私の頭を優しく撫でた。

なんだか気持ちが落ち着いてくる。

嗚呼、なんて暖かい手だろう。


「ゴホン。えーとな、綾部」

「……何?」

「もし、綾部じゃなかったら、俺、逃げてたかもしれねー」

「え?」

「お前だったから、絶対守ろうって思えたけど」


照れくさそうに笑った三井くんがとてもかっこよくて、思わず見とれてしまう。


――ねえ、三井くん、三井くん。

女の子は、そういう台詞に弱いんだよ。


夜7時過ぎの路地裏。

私はヒーローの手を握った。


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