とある日曜日の商店街


――日曜日、正午の商店街。

人混みと暑さで頭がくらくらする。


「蒸し暑ぃ……」


こんなところまでわざわざ来ずに、コンビニで済ませれば良かったと後悔した。

さっさと帰ろう。

――そう、思ったとき。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

「あ?」


突然、声をかけられた。

周りを見渡しても、声の持ち主の姿は見当たらない。

……空耳か。


「こっち!」


下に目を向ける。

と、俺のズボンを涙目で必死に掴んでいる少女の姿があった。


「なんだよ」


俺は顔を引きつらせる。

こういう展開は、大体、決まっている。

……迷子だろ。


「ママが居ないの!」


はい、ビンゴ。


「……一緒に探せとか言うんじゃねーよな」

「うん……うわあああああああっっ!!」

「おい、泣くなよ!」

「うわあああああああああっっ!!」


通り過ぎていく奥様方の目が痛い。

そりゃ、傍から見たらヤンキーがか弱い少女に絡んでる光景にしか見えねーだろうが。

この世の終わりとばかり泣き喚く少女。

……嗚呼、せっかくの日曜日が台無しだ。


「あれ、三井くんだ」


と、よく聞きなれた声が聞こえた。

救世主参上。我がクラスの委員長様。


「綾部!助けてくれ!」

「三井くん……何したの……」

「って、テメェまでそんな目で俺を見るな!」

「いや……だって、ヤンキーがか弱い少女に絡んでる光景にしか見えないもん……」

「そんなの俺だってわかってるっつの!迷子だ、迷子!」

「ああ、迷子か!」


綾部は泣き止む様子のない少女の前にしゃがみこんだ。


「ママとはぐれちゃった?」


綾部の言葉に、少女はこくんと頷いた。


「お名前は?」

「カナ……」

「カナちゃんか。どこから来たの?」

「お家!」



「いや、そりゃ俺にもわかる」

「三井くんは黙ってて」

「……」


綾部は子供の扱いが上手かった。

……妹か弟でも居るのか?

綾部の少女に向ける優しい表情に釘付けになる。


「おーい!もしもし、三井くん!」

「うおっ、なんだよ」

「もう、ぼーっとしちゃって、人任せだな。……うん、どうしようか」


いつの間にか話は終わっていたようで、少女は泣き止んでいた。

綾部と手を繋いで微笑んでいる。


「お兄ちゃんも手!」

「あ?」

「繋ご!」


と、強制的に俺の手を握る少女。

……なんだコレ。まるで幸せ家族じゃねーか。

なんだかこそばゆい。


「しばらくここに居たけど、ママ戻ってこなかったね。大体家の場所もわかったから、そこまで行ってみようか。見慣れた場所からだったら家に帰れるだろうし」

「お、おう」

「うん、そうしよ。すぐ近くだし」

「……さすが、問題児の処理が得意な委員長。こういうときもしっかりしてんのな」

「迷子と三井くんを一緒にしちゃダメだよ。三井くんの方が手が掛かる!」

「んだと!?」



「……何やってんスか、先輩たち」

「あ、流川くん」

「ああっ!?……て、流川じゃねーか」


流川は両手いっぱいに荷物を抱えていた。

聞くと、姉にお使いに頼まれたらしい。

――この狐野郎を操作できる姉ちゃんって、どんだけツワモノなんだ。


「幸せ家族ごっこスか」


流川は俺たちの姿を見て眉をひそめる。


「違ーよ!迷子、迷子!!」

「迷子?……よく見りゃカナじゃねーか」

「……おい、知り合いか」

「幼馴染の姉の娘」

「……」


俺と綾部の手を握っていた少女は、流川に気づくとヤツに飛びついていった。

俺の手には少女の手の暖かさだけが残る。

……別に寂しいとかそういうのじゃねー。


「楓ちゃん!楓ちゃん!」

「ヤンキーに絡まれてさぞ怖かったろうに」


「おい、ヤンキーって俺のことか」


「そんなことないよ!お兄ちゃんもお姉ちゃんも優しかったよ!ありがとう!」


少女は振り向いて俺と綾部に笑顔を向けた。


「良かったね、カナちゃん。流川くん、あと任せて良い?」

「……ッス」


流川におぶられて、少女は帰っていった。

両手に大量の荷物、背中に少女を乗せた流川はとても滑稽な姿だった。


「さて、私たちも帰ろうか。……って、三井くん?」

「……」

「おーい!み、つ、い、くんっ!」

「……何だよ」

「もしかして、ちょっと寂しくなっちゃった?」

「〜〜っ!だ、誰が!」


俺のうろたえる姿を見て、綾部は小さく笑った。


「あ、このあと暇?お昼ご飯一緒に食べようよ!」

「あー、そうだな。まだ食ってなかったか」


ま、こんな日曜日も、たまには良いだろ。

俺は綾部と二人、ファミレスに向かった。


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