アンチロマンチック


キーンコーン…。

5限終了を告げるチャイムが響いた。

校庭にはもう誰もいない。

そんな中で私は一人、体育で使ったハードルを片づけている。


「…重たい」


校庭の隅の体育倉庫の奥に、ガシャンと音を鳴らせてハードルを置いた。

外にハードルはまだ三つも残っている。

…一回でまとめて持ってきてしまおう。重そうだけど。


「また一人で頑張ってんのか」


声が一つ、体育倉庫の中に入ってくる。


「三井くん、なんでここに居るの?」

「別に。なんとなく」


男子は体育館でバスケをやっていたハズ。

…何故か三井くんの腕には外に残っていたはずのハードルが抱えられていた。


「え、ごめん!ありがとう!ていうかなんで!?」

「だから、なんとなくだ、なんとなく」

「…そっか。ありがとう」

「おう…一人でコレやってたのか」


三井くんは呆れたように笑った。

そして私は頭を軽く撫でられる。

なんとなく心地良い。


「いつもは友達が手伝ってくれるんだけど、怪我しちゃって」

「だからって一人でやることねーだろ。他にも女子は居る」

「そう、だけどね。えへへ、委員長だから、私。しょうがない」

「…お前さ、」


バシッと三井くんの両手が私の顔を挟む。


「委員長って言葉に、囚われすぎてねーか」


そんな三井くんの口から飛び出してきたのは、思いも寄らない言葉だった。


「…へ」


私の口から間抜けな声が漏れた。

三井くんは私の顔を挟む力を強くする。


「前から思ってたけど。あんまり無理してっとまたぶっ倒れるぞ」

「でもしょうがないよ」


私が笑ってそう言うと、三井くんは私の顔から両手を離した。

頬に体育倉庫のなまぬるい空気が触れる。


「一人でやらされて、むかつかねーの?」

「うん」


こういうことを辛いと思ったことはない。

委員長、委員長って頼りにされるのは嬉しいよ。

それにね、


「今日は、三井くんが来てくれたから」


私は本当に嬉しいよ。


「…こころ」

「え」


三井くんの口から発せられたのは、まぎれもなく私の名前。

私のことを苗字で呼ぶ三井くんから出るのが不釣り合いな単語なワケで。

私は顔を赤くして硬直するしかなかった。


「あー…、やっぱ慣れねえ!」


三井くんはそう叫ぶと自分の頭をガシガシとむしった。

照れているのだろうか。


「ぷっ」


挙動不審な三井くんが可笑しくて思わず吹き出してしまった。


「何笑ってんだ」

「照れるくらいなら苗字で呼べばいいのに」

「…名前で呼びたかったんだよ」

「そっか、寿くん」


爆弾を落とされた仕返しに、私も爆弾を落としてやった。

見事に爆撃成功。三井くんの顔は真っ赤だ。


「あ、みっちゃんの方が良い?」

「…徳男の顔が出てくるからやめろ」


そのとき、6限目を告げるチャイムが鳴った。


「あー!休み時間終わっちゃった!」

「よし、さぼるぞ委員長!」

「私は三井くんと違ってさぼり癖はないよ!」

「そりゃ前の話だろうが!今はちゃんと授業出てるっつの!」


…本当はさぼる気満々な私。
6限の授業は、三井くんと二人きりの体育倉庫で終了した。


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