恋愛ベクトル


オレンジ色に染まってきた放課後の教室。

誰もいなくなった教室で、私はひとり、日直日誌を書いていた。

…相方の三井くんが、とっとと部活に行ってしまったのだ。

だからこうして私が一人で、日直の仕事をしているというワケで。


「三井くんが日直の仕事をさぼってとっとと部活に行ってしまいました、と」


日直日誌の一番下、今日の感想という欄にそう書き、ふぅとため息をついた。


「誰がさぼってるって?」

「うあああああっ!」


後ろから聞こえた低い声に、肩を揺らす。

振り向くと苦笑いをする三井くんの姿があった。


「ありゃ…部活行ったんじゃ…」

「ゴミ捨て手伝ってたんだよ」

「机の上にカバンがないのは?」

「体育館ってゴミ捨て場の隣だろ、ついでに置いてきた」


なるほど、と頷いて今日の感想欄に消しゴムをかける。

そういえば、掃除当番の女の子が両手いっぱいにゴミを抱えて教室を出て行っていた。

彼はそれを手伝ったのだろう。


「ごめんごめん…にしても、遅かったね?」

「あー…」


ゴミ捨てに一体何分かけてたんだい、三井くん。

三井くんの微妙な反応から、何かあったに違いない。

…さては。


「告白?」


私の言葉に、三井くんは目を丸くした。

なんでわかったんだ、と言うような顔。


「ふふっ。最近モテモテだねぇ、ひゅーひゅー」

「うるせぇよっ」

「で、また断ったの?」

「…当たり前だ」


三井くんはグレ期終了と共にモテ期が到来した。

否、グレてたときも隠れファンは結構いた。

そんな羨ましいくらいモテる三井くんだが、それを毎回ことごとく断るのだ。

どうやら好きな人がいるらしい。


「…なぁ、綾部」

「ん?」


私は日直日誌を書きながら三井くんの言葉に耳を傾ける。


「俺、綾部が好きだ」


ピタリとシャーペンを動かす手が止まる。

ばっと顔をあげると、真剣な三井くんの表情がそこにあった。

「…へ」

「好きだ」

「…誰を?」

「お前を」


三井くんの目。

私の顔の温度が上昇していく。

三井くんの顔も、なんとなく赤い。


「綾部、顔真っ赤」

「だっだっだ、だって!ていうか三井くんだって赤いし!」

「恥ずかしいからに決まってんだろ!」

「私だって、告白された経験なんてないし、恥ずかしいもん!」


…なんて色気がないんだろう。

でも、私達らしいと言えば私達らしい。



…私の思考がフリーズしたまま、時間が流れていく。

カチカチと時計の音だけが響いていた。


「…あ、やべ、部活」

「行く?」

「ああ」

「わ、わかった!」


なんてぎこちない会話なんだろう。

ガタッと三井くんが立ち上がる音が頭に響く。


「返事とか別に良いから。今まで通り、な」

「え、あ、うん」


三井くんの言葉になんとなく驚いて、曖昧な返事になる。

返事はいらないというのが、心のどこかで何故か引っ掛かった。


「じゃ。日誌頼んだ。悪ぃな」

「うん、また明日」


こちらを振り向かず手だけをひらひらと振る三井くん。

その背中に、私は手を振った。



また明日、か…。



一人になった私は、日直日誌の今日の感想欄に「どうしよう」という言葉を、真っ赤な顔をして書いた。


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