シアワセノカタチ


「私、宗ちゃんのそういうところ好きだなあ」

「……そういうところって、どういうところ?」

「シュートのときに背筋がピンッとしてるところ」


私の答えを聞いた宗ちゃんはいつものように微笑んではいるものの、大量のはてなマークを飛ばしているように見えた。

海南バスケ部の部活終了時間は遅い。そして宗ちゃんは更に遅くなる。毎日欠かさず続けている500本シュートのためだ。

文句も言わずただ黙々と強くなろうと努力する。そんな宗ちゃんも私は大好きだ。


「何ニヤニヤしてるの?」

「んーん、別に。気にしないで続けて!」

「今ので丁度500本目。ノブたちが待ってるし、早く行こう。俺着替えてくるから待ってて」


私は部室に入っていく宗ちゃんに手を振りその場に腰を下ろした。

ノブくんと牧さんが先にラーメン屋で待っている。あれだけ動いたら逆に気持ち悪くなりそうだけどなあと私は思う。しかし彼らの体力とエネルギー消費量を甘く見てはいけないらしい。

ーーバスケ部とラーメン屋に行くと大変なことになると、学校中の噂だ。


「名前」

「うおっ!びっくりした!」

「おまたせ。待っててくれてありがとな」

「いえいえ。良い目の保養になったよ」

「それなら良かったけど。じゃ、行こっか」

「うん!」


着替えを済ませた宗ちゃんに突然顔を覗き込まれたもんだから、私は少し顔を熱くさせながら慌てて立ち上がった。

まったく、綺麗な顔をしてる。特にあの大きな目。羨ましいったらありゃしない!


「え?何か言った?」

「べっつにー」


私は宗ちゃんを嫉妬心を含んだじとーっとした目で見つめるけど、当の本人はそれを気にすることなく「今日は塩ラーメンの気分」なんて言っている。ちくしょう、この思いよ君に届け!

そんなやり取りをしている間にラーメン屋に到着。外にまでノブくんの笑い声が聞こえてきた。……ねえ、TPOって言葉知ってるかな?知らないよな。


「ノブうるさいなー」

「あっ神さん!お疲れさんっス!あと苗字先輩も」

「私は宗ちゃんのオマケか!……それにしても、今日はまた一段と凄いな」


先程も言ったが、バスケ部とラーメン屋に行くと大変なことになる……主に机の上が。

積み重なる皿の山。ここは行きつけのラーメン屋だから良いものの、初めて訪れるラーメン屋の大将さんは必ず顔を引きつらせる。


「オヤジ、塩と餃子」

「えっ牧さんまだ食べるの!?……宗ちゃんは?」

「塩と餃子……あ、あとチャーハンも」


細いくせによく食べる。宗ちゃんズルいところが沢山あるみたいだ!

私はおとなしくチャーハン大盛りだけにしておこう。


「俺、思ったんスけど」


麺を口一杯に含みながらノブくんが言った。とりあえず飲み込め。


「メンマって、何で出来てるんスかね」

「あ、私もそれ考えたことある。牧さん知ってます?」

「俺は海藻的な何かだと思うんだが」

「サーファーの感っスね。苗字先輩は何だと思います?」

「……木?」

「いやそんなハズはないだろ」


一体何なんだ……!私たち3人が頭を抱えていると、宗ちゃんが「ぷっ」と吹きだした。


「ごめん……っ、3人の会話が面白くて、つい……っ」


宗ちゃんは肩をぷるぷると震わせ、目に涙を浮かべている。そんな彼を見て「神、お前は知ってるのか」と、試合中と同じくらい真剣な顔をした牧さんが聞いた。


「タケノコですよ。ね、オヤジさん」


カウンター席の向かい側の厨房で忙しなく動いているオヤジさんは、宗ちゃんの言葉に無言でうなづいた。


「ほらな?」

「もっと早く言ってよ!私たち馬鹿みたいじゃん!」

「馬鹿な程可愛いって言うだろ?」

「そんなこと言ったらノブくんも牧さんも可愛いってことになるよ」

「あー……名前だから可愛いんだよ」

「宗ちゃん……」


「……何でも惚気に持っていけるってのはすごいな。まったく、見てるこっちが恥ずかしい」

「そうだそうだ!」


外野から野次が上がったからかどうなのかわからないが、「もう遅いし、帰ろうか」と言って宗ちゃんが席を立ったので私もそれに続いた。

ノブくんと牧さんはまだまだ食べる気らしい。胃袋もそうだが、彼らのお財布事情も少し気になる。


「じゃあ、2人とも、また明日」

「ばいばーい!」


2人に別れを告げ、私たちはラーメン屋を出た。

ノブくんの「俺も彼女欲しいーっ!」なんて声が聞こえてきたけど……君はとりあえずTPOって言葉を知ろう。


「ふぁ〜」

「名前、眠そうだね」


22時の夜道には、私たち以外に人の気配はない。ラーメン屋での喧騒が嘘のような静寂に、私と宗ちゃんの声が響く。


「食後だからさ、眠いの」

「おぶろうか?」

「冗談!」

「だよな、食後の名前は俺も無理」

「……どういう意味?」

「冗談。よいしょ」

「うわっ!ちょっと、宗ちゃん!おんぶよりもアレだよこりゃ!」


宗ちゃんは私をお姫様抱っこして、静かに微笑んだ。……何てこったい、チャーハン大盛りなんて食べるんじゃなかった。並盛りにしとけば良かった。


「名前」

「何?」

「好きだよ。馬鹿なとこも含めて」

「……それは余計だ」


宗ちゃんは珍しく声をあげて笑った。私も何だかおかしくなってきて、思わず笑ってしまった。

私は宗ちゃんが大好きだ。メンマがタケノコって知ってるしね……なーんて。


反省会


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