アンハッピー・ウエディング
4つ上の幼馴染が結婚すると聞いたのは半年前のことだった。結婚式は女にとって一世一代のイベントらしいが、俺にとっては悪の儀式でしかない。最も、それは俺が何年も片思いをしていた女の結婚式だからなのだが。
「来てくれたんだ、寿」
「……ああ」
ウエディングドレスを着た名前は、今まで見たことがない程美しかった。これが俺ではない他の男の物になると思うだけで泣けてくる。俺はそんな気持ちを隠すように目を伏せた。
「結婚オメデトーゴザイマス」
「アリガトーゴザイマス。って、全然感情篭ってないな!またお姉さんに先越されて悔しいのか?……何をするにも私がいつも先だったからね、何度アンタの悔し涙を見たことか」
名前は口を大きく開けて笑った。俺は「相変わらず下品な笑い方だな」なんて悪態を突くことしか出来なかった。そんな幸せそうな顔をされちゃ、辛いったらありゃしねーわ。
「……チッ」
「あっ今舌打ちしたな!素直にお姉さんの晴れ舞台を喜ぶことが出来ないのか君は」
「出来ねーよ」
「なんで、」
「お前が好きだからに決まってんだろうが!」
ラッキーだったのは今この部屋には俺と名前しか居ないことだった。(不本意だが、多分、皆俺の気持ちを察して出て行ったのだろうと思う)
名前は一瞬驚いたような顔をした後、少し悲しそうに笑った。「ありがとう」そんな言葉、俺は聞きたくなかった。
「もうすぐ式が始まるよ。早く戻りなさい」
「嫌だ」
「ワガママ言わないの、もう子供じゃないんだから」
「じゃあ、お前の言うこと聞いてやる代わりに、俺の言うことも聞いてくれ」
「何?」
「キス、してくれ」
「ははっ。相変わらずマセガキだなあ、寿は」
「もう子供じゃねーって、お前さっき言ったじゃねーか」
「……そうだったね」
名前は俺の唇に自分の唇を軽く押し当てると、小さく笑った。俺もつられて笑ってしまった。
名前の「またね」という声を遮るように「じゃあな」と言った俺は、早々に部屋を飛び出し物陰で声を押し殺して泣いた。
遠くで鐘の音が鳴った気がした。
反省会