はじめてのあさ(1/3)
※「はじめてのよる」の翌朝のお話です(*'ω'*)
念願だった一線を越えた達成感と、真っ白な彼女の身体を穢してしまった罪悪感。
翌朝を迎え、ぐるぐるとふたつの気持ちが喧嘩している。
しかし、幸せそうに眠る彼女の顔を見ていたら罪悪感なんて消えてしまった。
昨日。
夫婦になって、ついに彼女とひとつになった。
心の奥から湧き上がる高揚感(アドレナリンだろうか)と、彼女から香るいい匂いで全く眠れなかった。
でも彼女はいつも通り――とは少し違うけれど――、すやすやとかわいらしい寝息を立てて寝ている。
"いつも"とは少し違う点は、ずばり衣服を身につけていないこと。
行為が終わってから、服を着るのも億劫で。
かつ素肌で感じるぬくもりが心地よくて、結局そのままだ。
まだ冷めやらぬ熱にコラと一喝し、亜子ちゃんに布団を被せてやった。
布団をしっかり被って寝たはずなのに、どうしてこうめくれてしまうのか。
――もしかして亜子ちゃん、寝相悪い?
察したそばから足で布団を挟み込み、ぎゅうっと抱きついている。
抱きつく相手を間違えていないかい?
俺はこっちだよ。
寝返りを打とうとごろんと反転したときに気がついた、白いシーツに映える小さな赤黒いシミ。
「…………」
噂には聞いていたけど。
そりゃあ、無理矢理、してしまった部分もあるけれど。
自分たちには無関係だと、大丈夫だろうと思っていたけれど。
現実を見せつけられ、胸が痛んだ。
「ごめんね、痛かったね」
ぽんぽんと頭をなでれば、寝ぼけたまま「んふふ」と笑った。
やさしい亜子ちゃんなら、気にしないでって笑ってくれるだろう。
でも。
結果傷つけてしまった。
一生心に残る痛みを与えてしまった。
「……毎回痛いのかな」
それは可哀想だ、とは思いつつ、また亜子ちゃんを抱きたい、いますぐにでも、とも思ってしまう。
さかりのついた猫か。
サルか。
あれだけ「見ないで見ないで」と泣いていた白い裸体を、いまでは無防備に晒している。
白い陽があたって、より白く思えた。
やはり、きれいな身体をしている。
その裸体の中央。
胸の真ん中。
ピンク色の、小さな花。
俺がつけたしるし。
まだ残ってたんだ、と手を伸ばすとビクッと反応した。
やがてゆっくりとまぶたが開き、寝ぼけたままの栗色のかわいい瞳を見せてくれる。
「たかくん? おはよ」
「お、おはよ」
「……きゃあ!? ど、どこさわって……!? って私なんで服……!」
ようやく意識がはっきりしたらしく、面白いように顔が赤に染まっていった。
「えっち……」
「したね」
彼女の顔をのぞき込んでみれば目を回していて、そんな反応に俺まで照れてしまう。
昨夜の感触を思い出してしまう。
昨夜の表情を思い出してしまう。
「きゃーー!」
とかすれた声をあげ、布団を奪われた。
俺の身を隠してくれるものはない。
残念なほど威厳を表す愚息。
手で隠せるだけ隠しておいた。
とりあえず亜子ちゃんの服を、と床に散らばった服めがけて手を伸ばしてみれば、こんなに小さくていいのかと心配になってくるショーツ。
水色で、リボンがかわいい。
ムンと女の子の、亜子ちゃんの匂いがした。
「……ぱ、パンツ、とりあえずどうぞ」
「ありがとう……」
布団の塊に差し出すと、さっと手が伸びてきて、先程まで手にしていた水色のモノが一瞬で消えた。
「……ティッシュある?」
「あ。ご、ごめん!昨日、俺後始末もなんも……」
「ううん。あとでシャワー浴びるから」
「次からは……」
次。
あるのか。次は。
でも、また、といってくれたし、あるんだよな。
亜子ちゃんも「うん」と返事をした。
お次は先程のショーツとセットらしいブラジャー。よく着けているらしく、度重なる洗濯によってタグの文字が消えかけていた。
Cという文字がかろうじて読めるだけ。C。
「見ないで」と怒られながらも手渡すことに成功した。
少しずつ、亜子ちゃんがもともと着ていたものを渡していった。
俺もひとまず隠せるものを、と下着だけ身につけた。
「……」
こういうとき、なにを話せばいいのだろう。
相変わらず布団にくるまったままの亜子ちゃん。たまに俺を伺っては布団の中に隠れてしまう。
ようやく出てきたかと思えば「朝ごはんつくる」とつぶやき、極力俺と目を合わせないよう顔を伏せて、部屋から出ていった。
はじめて迎える、きみとの朝。
こんなに緊張するものなのか。
「あー……」
きみの感触。表情。声。におい。
思い出して、また赤面してしまう。
きっと彼女もまた。
ふと時計を見てみれば、時間的には昼ごはんに近いくらいだった。
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不器用恋愛