眼鏡を外して。(1/17)
俺たちの始まりの合図は、彼女がそっと俺のメガネを外すこと。
ぎこちない手つきで細い指で、小さな手で、そっと外していく。
コンプレックスをひた隠す俺のメガネ。
彼女が好きだと言ってくれる緑色の目。
その目で見つめて、見つめられて。
矯正のなくなった視力ではぼんやりとしかわからないけれど、彼女がほほ笑んでいることはわかる。
きれいな栗色の髪を揺らし、「よろしくお願いします」と頭を下げて。
上がった顔。
少し、俺に近づいて。
「ふふ」と笑うきみは一番きれいに映る位置。
ピントの一番合う位置を見極め、その中で笑ってくれる。
「やさしく、してね」
「うん」
一種の儀式のようなもの。
膝の上で笑う彼女の肩を抱き、やさしく口づけをする。
この一瞬が、緊張と、高揚と、様々な気持ちが交ざりあって心地よくて、好きだ。
さあ、ふたりきりの夜のはじまりだ。
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不器用恋愛