眼鏡を外して。(2/17)



金曜日。

若干のアルコールと一週間分の疲れを背負って帰宅したわが家で俺を待ち構えていたのは、愛しのかわいい奥さん。

ちいさくて、
栗色の髪をしていて、
困ったように眉を下げて笑う、
笑顔のかわいい奥さん。

やわらかい頬にちょこんと浮かぶえくぼをつつきたくなる。



「おかえりなさい」

「ただいま」



この笑顔を見ると、途端に疲れが吹き飛ぶようだ。
なにかフェロモンでも出しているのだろうか。
しあわせホルモン? 癒しフェロモン?

なんだっていいや。

俺を癒してちょうだい。

なにも言わずに抱きつけば、やさしく包んで「おつかれさま」のキスを――してくれたら、最高なんだけど。

シャイな彼女の唇はなかなかいただけない。

俺をやさしく包んで、「一週間おつかれさまでした」と頭を撫でてくれた。



「んー」

「あ。お酒呑んでる」

「ちょっとだけね」

「座って待ってて、お水あげるから」

「うん」



台所に立つ小さな背中。
こんな小さな身体のどこにそんな体力があるのかとびっくりするほど彼女も重労働をしてきたはずなのに、よくこんなにテキパキと家のことまできっちりこなせるなあ。

頭が下がるばかりだ。

運ばれてきた水をあおり、「ありがとう」とつぶやけば、ふふふ、と笑って「どういたしまして」と言った。

違うよ、水のことじゃなくて。

こんなときに醒めてきた酔いが憎たらしい。
「うん」とうなずくことしか出来ない。

ぼんやりとしている俺を心配してくれたのか、また頭を撫でてくれる。

ああ、心地いい。
きみにこうされるの、すきだなあ。

ふと目が合って、彼女が口を開く。



「ごはんにする? それともお風呂?」



――あ、なんか聞いたことあるぞこれ。



「亜子ちゃん」



なんて。
答えたらきみはびっくりするのかな。



「ごはんにします」


そんな恥ずかしいこと俺に言えるはずもなくて、腹を満たす選択肢を選んだ。腹が減っては戦はできぬ。


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