act.3 father
隣の教室から、かすかに聞こえるお父さんの声。
ぼーっとしてしまう数学の授業中。
「亜子ちゃん、」
「!……あ、えと」
隣の席のさゆちゃんが私の机を指先で軽く叩く音で我に返る。
「次、あなたよ。答えはこれ。もう、ぼーっとしないでよね」
「あ、ありがと……」
答えを書き写してほっとしていると、先生に当てられた。
これでまた、しばらくぼーっとしていられる。
耳をすませばコロンブスがどうとか。
熱くなっていろいろ語ってるみたい。
一度でいいから、お父さんが授業をしている姿を見てみたいなぁ……。
同じ学校に在籍しているとはいえ、さすがにお父さんが学年主任をしているのは3年生、授業を受け持っているのも3年生と2年3、4、5組。ちなみに私は2年2組。
3組の細川くんがいうには、「やさしい顔して鬼!」。
4組の真紀ちゃんは「本当に亜子のお父さん?」。
5組の絵田さんは「甘いもの大好きだよねー。アメあげたら喜んじゃった」。
……お父さん、世界史に関しては容赦ないからなあ。
みんなが『わいろ』と称して甘いものを贈る気持ちがよくわかる。
私だって世界史のテストで平均点以下をとった日には、『わいろ』だとばれないよう細心の注意を払ってケーキ作りを頑張っていたりする。