act.1 蒼天吉日
幸せになるための1歩を踏み出すことが、どれほど重労働か。
秋も近づく土曜日、母さんが踏み込んだ1歩を見、なんとなく知った。
「再婚する」という母さんの言葉に、「またかよ」と眉間にシワを寄せた俺は親不孝者かもしれない。
これで3回目の再婚騒動。過去2回は未遂だった。
お断りの理由は俺。
目つきが悪い、
口が悪い。
そんな理由だった。目つきが悪いなんて俺のせいじゃないのに。
そんな再婚騒動に今日も付き合わせようと、俺の身体を軽自動車に押し込む母さん。
なぜ母さんは天井の低い軽自動車ばかりを好むのか。おかげで猫背だ。
――これ以上猫背になってたまるか。
小さな反抗を試みてシートに寝っ転がると、おめかしをした彼女はハンドルを意気揚々と切る。
「ごめんねぇ。今日くらいしかあの人休みが取れなくて。娘さんは大丈夫なんだけど……ほら壱!スマイルスマイル」
「……なんで今回はこんなに突然?」
「さささ、サプライズよ」
嘘つけ。
俺が渋るってわかってたからだろ。