長い長い髪が秋風になびく。
あの日から切っていないと言っていた、長く綺麗な髪。
俺ヘの嫌がらせか。復讐か。見る度いつも思う。
でも「あの日を忘れないため」。彼女はそう言った。
彼女にとって、あの日は亡くしかけた命を救われた日なのだそうだ。それは大げさだと思うが。
俺のしょぼい腕に、救われたのだと多香子は言う。
こんな、なにも掴むことのできない腕に。
「いっちゃん、ジェントルマン」
「はあ?」
「優しいなーって。待っててくれてるじゃん」
「ああ……」
多香子が笑ったから目をそらした。
いつからこの癖がついたのか。
俺の目にはまぶしすぎる笑顔。あの日から直視できないでいる。
それに、そんな笑顔をぶつけられたとして、俺は彼女にどんな笑顔を返せばいい。
笑ってみたとしてもきっとひきつったものになるだろう。不自然に歪んだ、いびつな顔に。
そんな笑顔じゃ、おまえは怒るだろ?