「顔は親父似だったかも」
「ツリ目?」
「んー、よく覚えてねえや。死んでから結構経つし」
さらりと流れた言葉。
危うく聞き流してしまいそうだった。
「あ……その、……ごめんなさい」
「いーよいーよ。気にしないから。へんてこ親父だったし」
壱くんは、お父さんの死を乗り越えてる。
私は乗り越える以前のところでつまずいているのに。
すごいな、とありきたりなことを思った。
「ほら、そろそろ帰れよ。岳司さん心配するぞ」
「……今度、いつ来てくれる?」
「あ?」
「なんでも、ない……」
じゃあね、と手を振る直前、ヘルメットを被っていた壱くんが、
「亜子は、岳司さんにもっともっと甘えてもいいと思う」
「お父さんに?」
「ああ。遠慮してる感じがしてさ。たったひとりの家族なんだろ? 岳司さんだって甘えてほしいと思うな。亜子だって、俺みたいな奴といるよりお父さんといる方が幸せだろ?」
「あ。え、えぇっ?!なんで!私の、幸せ、って、わかるの……」
「ヒ・ミ・ツ」
「じゃな」と短く言い、壱くんは行ってしまった。
八重歯をちらりと覗かせた笑顔がまだ残っている。
不思議、フシギ、ふしぎ。不思議だけが駆け巡る。
夕日色に染まるアスファルトを一歩一歩踏み締めて、家に帰る。
考えるはふたつ。
ひとつは壱くんが私の幸せを知っていた謎。
もうひとつは、もちろん。
お父さんにどう甘えようか。
久しぶりすぎてどう甘えればいいのか、なかなかわからなかった。