「よ、レッド」
「…またサボリ?」

気が付けば同い年だということを知って、気さくに話しかけられるくらいには、何度か交流を持った二人。
今更ながらにこちらの出現に気付いた周りのスタッフも、おう、来たのかなんて慣れた様子でグリーンを迎え入れている。
対するレッド本人はどこか呆れ顔だ。
まあ、撮影があると聞く度にちょこちょこと現れるグリーンの存在は、確かにレッド本人には鬱陶しいと感じるのかもしれない。
…そう考えると切ないものがあるかもしれない。

「サボリじゃなくて休憩時間だって。こうして合間を縫ってわざわざ見に来てやってるんだろー」
「別に頼んでないけど」

尚もどこか呆れたような、困ったような顔をしているレッド。
最近知ったことだが、その顔は彼がどんな反応を返せばいいのか分からない時にする表情だ。
ぼんやりと、まるで現実世界になんて興味がないように常に遠くを眺めていた在りし日の彼は。
実は若干現実での表現力が足りていないだけで、話せばちゃんと人間らしい反応を返してくれるということを今ではよく理解している。
きっかけは演技から。
その演技をしている時のレッドも、今でももちろん好きだけれど。
こんな風に、グリーンを見てちゃんと会話をしてくれるレッドのことも、素直に好きだと思う。
全くの畑違いもいいところ。
だけどこうして、同い年でほぼ同じ時期にスタートを切った人物との繋がりが出来たことに、グリーンは感謝している。

「いいじゃんか。未来の大御所プロデューサー様がこうして気にかけてやってるんだぜ?もっと喜べっての」
「面白いね、それ」
「…冗談だと思ってるだろ」

二人の時間はいつだって短い。
ちらりと腕時計に目を向けると、もう今すぐここを飛び出してダッシュで戻らなければならないくらいの時間になっていた。
もう少し彼の演技も見ていたかったし、会話もしたい。
名残惜しさを感じながら、向けられた小馬鹿にしたような言葉に唇を尖らせながら小さく時間だと呟く。

「あー、やっべ。もう戻らないと…んじゃ、またな」
「あ…う、ん」

勝手に次の約束をするためのまたな、という言葉を紡いで。
とりあえず演技をしている時のレッドを見られて、素のレッドと会話が多少なりとも出来たことに心が満たされるのを感じながら。
入ってきた扉から出て行こうと、して。


「…冗談なんて、思ってないから」


小さな。
だけどよく通る声が、グリーンの耳に届いて。
思わずタイムリミットも忘れて振り返る。



「グリーンなら、なれるよ」



そして時間差で告げられた、先の言葉の回答。
一瞬何を言っているのか分からなかったけれど。
それは確かに、グリーンの背中を押してくれるもので。

加えて、そんな時になって。
出会ってから初めて目にする、レッドの。
演技でも何でもない。



それはそれは微かな、だけど優しい笑顔に。



「、っ!」

どきん、と。
胸が強く高鳴ったのは。
果たしてどういう意味だったのか。



「…っ、ま、またな!」

熱くなる頬を誤魔化すように。
レッドの優しい言葉には何も返さず、改めてまた会おうという約束だけを残してスタジオを後にしたグリーンはもう、実は。
己の中で何かが芽生え始めていることに気付き始めていたのかもしれない。
そしてめでたく。
色んな意味で周りを考えない全力疾走を見せた結果、本日スタジオから持ち場への最短記録を更新した彼は。

(〜〜あんなのって、反則だろ!)

息切れをしている様子を先輩社員にからかわれながら。
尚も収まらない頬の熱に、確かに何かの始まりを自覚したのだという。



順風満帆な人生を歩んできた彼が初めてぶつかる。
それはそれは長い、苦悶とときめきの日々の始まりだった。




110908提出
舟善しあん‐芸能パロ




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -