MoonCradle
NOVEL


グレイ・アフターSS






「あの舞踏会が終わってから一ヶ月か。」
俺は街をぼんやり歩いていた。

俺の正体が仮に白昼にさらされたとして後悔などなかったーーー。

あの時は酔った勢いもあったしな
夢中になっていたが、少々やり過ぎたかな、なんて。

あいつを実際目の前にして、俺もどういう顔をしていいのか分からなかったからな。


今でもあいつの姿が脳裏に焼きついてて、温もりが”この手”に、
この身体に染み付いてる……。

そして忘れてはいけない立場。
アイツは小さい国とはいえ、
王女だ。

この前の男爵だけでない、
今後隣国の王子やら伯爵やらからも声がかかるに決まっている。

小さい頃とは違う…。
当時は立場なんて関係なく
お忍びできていたアイツも含めて仲間と遊んでいた。

木に登って無理やり木の実をとろうとして落ちた時の足のひらきかたとひっかけ具合は
すごかった…
思わすその姿に一瞬笑って、でもその時にあいつに残った傷……

「俺が責任取るんだ〜なんて言ってたな」

俺が守っていくと思っていた。

でも立場が違いすぎた。
そんな事に気付いたのは、それからずっと後の事だったが。


あの時の傷がまだ小さく残っていた身体。

もっと触れて……癒して、慰めてあげたかった。
きっとあの時と変わらないところと、すっかり変わったところと

「身体だけ大人になりやがって……」

夢中になっていた気がするが、
もっと深く味わっておけばよかったと思う。

いっそ、あのままあいつを連れ去る事ができたらな……


道をぽつぽつ歩いていると、
パン屋がみえる。店内から焼きたてのいい香りが
ふわっと鼻先をくすぐる。

「よぉ、グレイ。
商売のほうはどうだ?
よかったら新作のパンができたから
後でもっていってくんな!
なんたってうちの店のパンは姫様お墨付きだからな!
すごいぞ、この前、このパンに名前までつけてくれたんだ!
これでまたもうかっちまうぞ!」

がっはっはとバンバン背中を叩かれた。
…相変わらずだ。
ここの主人は商魂たくましく、
ちょっと前まで看板に
店一番人気!世にも珍しいたこのパン!と書いていたくせに、
姫公認!一番人気の新作パン発売!とちゃっかり変えている。


「んで、新作のパンってどれだ?」
「あー、そこにあるやつだよ、そこ、花火パン!」

「…花火、パン…?」

「そうだよ、あのパーティーのあと思いついたらしい!わざわざ遊びにきてくれたよ!
あーでも最近こないなぁ…ああ、寝込んでるって話だったな。」

花火パン…安直すぎる。
そんなネーミングつけるやつが…俺のことを黙っていられるんだろうか。
何いいだすかわかったもんじゃない。

「じゃあオヤジ、それ、買ってくわ。」
考えるより、動くか…
性に合わない。

そう、アイツが使っている
抜け道を通れば…。

俺はひとまずパンを購入した。

そのパンは、一見何が入っているかわからないような、
普通の丸くて深い茶色のパンだった。

「あいつに持っていくか……」


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