明日の話をしよう | ナノ

ぬくもりの温度




『とっつぁんに捕まっちまってなぁ付き合わされてたんだ』
ニコリと笑った勲からふわりと漂った酒の匂い
すでにかなりの量を飲んでいる様子だ

『それでなんでここに?忘れ物ですかィ?』
『あぁ、ケータイをデスクに起きっぱなしだったのを思い出してな、取りに来た』
気恥ずかしそうに頭を掻いて苦笑い、大の大人に向けた言葉ではないがかわいいという言葉が真っ先に浮かんだ
デスクでは見ることが出来ない貴重な表情、それが見れただけで残業やっててよかったとすら思う程、総悟はこの男に夢中だった

『総悟は?仕事片付いたんならお前も行かねぇか?とっつぁんの奢りだぞ〜』

行きます!
その言葉が口から飛び出すのを必死で抑えた

全て投げ出して着いていきたかった
けれど、心に浮かんだ言葉に思い止まった

「お前に任せた!」
この男の信頼を裏切るわけにはいかない
早く認めてもらいたいんだ
一人前として、ひとりの男として

「…すいません、まだ終わりそうもないんで…俺は行けやせん」
それは消え入りそうな声だった
残念で仕方がないのだ、本当は行きたくて仕方がない

その思いがばれてしまわないように総悟はうつむいたまま顔をあげることができなかった
「そうか、邪魔して悪かったな」
残念そうな勲の声が降ってくる

残念なのは俺の方だ
少しでもアンタの側に居たいんだ

そんな総悟のあたまに触れた大きくてあったかい手
総悟の胸はものすごい早さで鼓動した

「あんまり無理すんなよ?からだ壊したりしたら元も子もないしな」
総悟を気遣う言葉がじんわりと心に染み渡る

「頑張ってる総悟は今度、俺が飲みに連れてってやろうな!」
名前を呼んでもらえるだけでウレシくて胸が苦しくて、それだけでなくいつの日かの約束事
口約束かもしれないそれがどうしようもなく嬉しくて女々しいことに総悟はちょっと泣きそうだった

「じゃあ頑張れよ!また明日な!」

心を落ち着かせて言葉を返そうとゆっくり顔をあげる
その目に映した勲の満面の笑顔に心奪われた

この人の笑顔は本当に太陽みたいだ

薄暗い廊下で総悟は眩しそうに目を細めた


用を足してからオフィスに戻ると勲の姿は無かった
当然だが、ちょっと寂しく感じているもデスクの上にさっきまで無かったものがあることに気づいた

缶コーヒーだ
そしてそれに貼り付けてある附箋には勲の力強い字で

【これ飲んでもうひと踏ん張りだ!頑張れよ】

缶のプルタブを開け、コーヒーを一口流し込む

「もうひと踏ん張り、頑張りやすか」
そうひとこと呟いて総悟はパソコンの前に腰を下ろした、彼の口元は笑みを浮かべていた



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