「ギガ、これあげる」

自室に戻る途中、ななしに呼び止められ手渡されたのは無機質で冷たい色を放つ機械に囲まれた空間には少し目立つ鮮やかな小振りのリース。組まれた蔦の間には赤色の花と黄色い実が挿してある。
突然なんだと思いつつも珍しいななしのプレゼントに素直に喜び「さんきゅ」とお礼を言い受け取れば「ホライズンちゃん達と作ったんだけど置くとこないから」とバッサリ。
「いらなければ捨てていいから」と告げ、ななしはもう用はないと言わんばかりに踵を返しすたすたと去ってしまった。残された俺はななしの背中とリースを交互に見つめため息をついた。


ななしと俺は恋人同士だ。俺の粘り強い猛アタックの成果というかななしが根負けしたという裏話があるがそれでもちゃんと恋人同士だ。
しかしそういう理由でななしから俺にアプローチがある事は滅多にない。恐ろしい程無い。哀しくなる程無い。
なのでとてもとても珍しいななしからのプレゼントが嬉しくないわけがない……のだがななしの口ぶりから素直に喜んで良いものか若干悩んでしまう。いや正直それでもめちゃくちゃ嬉しいのだが。
愛されてる自信が無い。しょうがないとは思うのだけれど。
「ホントに愛されてんのかよ……」という独り言をちゃっかり聞いていたアーミィに「むしろ愛されてると思った時あるのかよ」鼻で笑われ心当たりが思い当たらず無言になってしまいアーミィが本気で同情するという悲劇が起きたのはつい先週の話だ。

どうしたもんかと思案を巡らせながら自室に向かっていると「あ、ギガだ」と声がかかる。なんだ今日はえらく呼ばれる日だな。

「ギガだ」「ギガだね」「こんにちはギガ」

声のした方を向けばそれぞれ赤、青、黄色の髪と服の少女。

「ホライズンじゃねぇか」

とてとてと近寄ってきたホライズン達が俺が持っているリースを見て「あ、ななしちゃんのリースだ」と一言。
「そういやお前らと作ったんだってな」と返せば「そうなの」「シークの人工庭園でみんなで作ったの」「ななしちゃんのはアネモネとカリンとツルバラだっけ?可愛いよね」と順々に喋ってくる。
花の名前を言われたところで分かるわけでもなく「へぇ」とだけ返事を返せばホライズン達が「でもななしちゃん、ちゃんと渡せたんだね」と嬉しそうにクスクス笑う。そんなホライズン達の言葉に俺は「ん?」と首を傾げた。

「渡せた?何言ってんだ?これはななしが置く場所が無いってんでくれたんだぜ?」

俺の言葉にホライズン達は「え?」と吃驚したように俺を見つめ、しまったという顔をしてしてお互いの顔を見合わせ「やっちゃった?」「やっちゃった」「ななしちゃん内緒にしてたみたいだね」とひそひそと話し始めた。
訳がわからず「おい」と声をかければホライズン達は肩を跳ねさせ「ごめんねギガ」「ななしちゃんが内緒にしてるみたいだから私達も内緒内緒」「内緒なの」と言いながらパタパタと逃げ出した。
なんなんだとまたため息をつけばホライズンの1人がぴたりと立ち止まりもう一度こちらに近寄って小さい声で「お花にはね、それぞれに意味があるの」と言ってにこりと笑った。自らの唇に人差し指をあて「ななしちゃんには内緒にしてね?」と一言赤い髪をなびかせまたパタパタと逃げてしまった。

1人取り残された俺は今日何度目になるか分からないため息をつき自室に足を向けた。
部屋に戻り壁に貰ったリースを飾りながら先程のホライズンの言葉を思い出す。よく分からないがホライズン達の反応が気になるし、なにより折角のななしのプレゼントなのだ。意味があるというのなら調べるしかないとモニター前に座りコンソールを叩いた。



「ギガ入るぜー……って一体なにやってたんだよ」

短いノックの音と部屋の扉が開く鈍い音と共に部屋に入ってきたアーミィが呆れた顔をする。
「何が」と返せば「すげーニヤけてんぞお前」と気持ち悪いものでも見るような視線を送られた。

「いやだってななしが超可愛い」

「ノロケかよ」

ケッ!と吐き捨てたアーミィに呆れ顔のまま頭を引っ叩かれた。


数日後、シークに「似合わないわね」なんて笑われながら用意してもらった赤い薔薇にピンクのカーネーション、白いカラーとカスミソウで作られた大きな花束をななしに「リースのお礼」と渡したところリースの意味に気付かれたと察し頬を薔薇色に染めたななしに照れ隠しに思い切り平手打ちをくらい頬に紅葉を作ってアーミィやグラビティに大爆笑されホリックに「青春だねぇ」なんて茶化される事を、ギガデリックはまだ知らない。


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