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どたばたとした騒がしい足音が聞こえ、レオナは大きく欠伸をした。
人に気を使うことを忘れたかのような足音は、そのまま植物園に近づいてきて、寝ているレオナ目掛けて名前を呼んだ。

「レオナ」
無邪気な癖に傲慢で如何にも身分が高い人間の象徴のように人の名を呼ぶ。下級生にも関わらず自分の事を呼び捨てにする男など学園に一人しか存在しない。
本来なら相手にしないか一言文句でも言いたい所であるが、あいにく、この男がまともに対話できる相手ではないことを知っているのでレオナは口を閉ざした。
カリム・アルアジームは無遠慮に寝ているレオナへと近づくと横に腰を下ろす。
その横で鼻歌を口ずさみながら弁当箱を広げながら食事を始めた。
色とりどりに彩色され、食べるより前に見て視覚的に楽しむことを考慮された弁当は、レオナに言わせれば無駄の塊だが、実家に居た時にはよく見る皿の絵だった。

「これさぁ、ジャミルが作ってくれたんだ。凄いだろ」
「あぁ? どうでもいい」
「まぁそう言うなって!」

見せびらかすかのように弁当を見せてくるが心底どうでも良かった。だがカリムは一口、一口食べながらレポートし、上手かったから食べてみろ! と言われたので仕方なく口に一つ手に取って口に含む。
大味を好むレオナからしてみれば、繊細過ぎる味付けだったが、上品に纏まっており、美味いか美味くないかと問われると、当然、美味しい、と言いたくなる味付けだ。
料理人の腕が余程良いのだろう。
そう思ったが、それを褒めてしまうと更なる惚気が飛び出してきそうだったので口を閉ざし、与えられるものをひたすら口に運んだ。
とても一人では食べきれない量の弁当だったが、殆どがレオナの口に運ばれたこともあり、綺麗さっぱりなくなった。
幸いなことに肉料理中心だったこともあり、米粒一つ残らない弁当箱を見て、カリムは「口にあったみたいで良かったぜ」と陽気そうに話した。
カリムはそれから昼休みの時間を使い、好き勝手喋った。昼寝の邪魔をされて追い出したかったが、返事はなくとも喋り続けるカリムに口を挟む暇はない。鐘が鳴るとサボるということを知らないこのお坊ちゃんは出ていくだろうよ、とあと数分ほどのことだと瞼を閉じる。
喋るカリムの声はまるで植物園にいる鳥のように軽やかで、自分が喋ることにより相手も幸せになるのだと思い込んでいる。すべてを肯定され生きてきたような人間だけが持っている特権のような能力だ。
脳裏に僅かに自分の甥の姿が写る。
カリムの喋り方はどこか似ていた。言葉が似ている訳でも思考レベルが同じわけでもない。ただ、本人が持っている愛されたものだけが持つことを許されたような。そういう空気感が、似ているのだ。レオナからしてみれば一生かかってもそれは手に入らないものであるし、欲しいとも思わない。
その言葉を一つ一つ嫌いだと言えてしまえば楽になるのかもしれないが、ふと口を開こうとしたときに、満面の笑みを向けられてしまうと思わず言葉が詰まる。まるで、そんな考えをする己の方が汚れていると思わせられてしまうからだ。


「あ、もうこんな時間か! なぁ、レオナどうだった!?」

予鈴が鳴りカリムは慌てて立ち上がった。話半分にしか聞いていなかったが、要約すると「この料理はジャミルがレオナにって作ってくれたんだ。だから好物がいっぱい入ってた筈だ! 美味しいだろ、ジャミルは凄いんだ」とかそんな内容だった気がする。

「なんで俺宛てなんだ」

スカラビアの副寮長とは殆ど会話をしたことがない。知らない仲ではないが、個人的に昼食を作ってもらうほど親しくはない。純粋な疑問を飛ばすが、逆にカリムの方が首を傾げてどういう意味だ? という顔を一瞬した。

「そうだった、そうだった、肝心なこと言い忘れてたな。お誕生日おめでとう! レオナ。この昼食はオレとジャミルからの誕生日プレゼントだ。宝石とかはレオナはいらないだろうから、最高級の肉を用意してジャミルに料理してもらったんだ」

どうりで美味い肉料理ばかりが詰まった弁当箱だったな、とレオナは納得した。目の前のカリムはまだ何も言っていないのに「喜んでもらえて良かったぜ!」と勝手に結論を言い渡してきた。
わははは、とカリムは笑い、予鈴の事を思い出し「じゃーな」と声をかけ、慌てて駆けていった。
最後まで煩い奴だったと呆れ気味にため息を吐きだすが、誰かが喜ぶために何かをしよう! という気持ちで動いていたカリムの好意を裏切れず、誰もいなくなった植物園で「ごちそうさん」と言葉を漏らした。