「本当は独り占めしたいんやろ?」

と田舎交じりの独特な喋り方をする奴は剣呑な声色で尋ねてきた。先ほどまで酒を浴びるように飲んでおり、泥酔している風に見えたのに、俺の姿が見えると、何やら話したいことがあったのか、近くのテーブルに腰かけられ、先ほどの言葉を吐き出された。
細められた双眸に緩く吊り上がった口角。随分と自信満々に吐き出された。下っ端の末端風情がアイツの理解者気取りやがって気にくわねぇなぁと、少しばかり苛立った。
そもそも、コイツがこんな風に喧嘩腰で喋りかけてくる時といえば、大抵、ソロモン王に関することに決まっている。執着染みた眼差しでソロモン王のことを常日頃から見ているこの男だから気づくこともあるのだろう。又は、気づいてソロモン王に話しかけ、その中で得た内容を俺に良かれと思って(まるで忠告するかのように)伝えてくる時もある。過保護すぎるだろうって内容でもお構いなしだ。
「独り占めしたいって、それは俺に向かっての台詞なのかよ。自分にじゃなくて」
眼前で目が据わっている男がどれほどソロモン王に執着しているのか、俺は理解しているつもりだ。敬愛なのか、友愛なのか、それとも性的な欲求を含む愛情なのか、はたして、言葉では縛り付けられない感情なのだろうが、数いる追放メギドの中でも、コイツのソロモン王への愛情は並外れている。
幅広く周りを見渡しているように見えるが、コイツの頭の中は基本ソロモン王のことで溢れかえっている。彼にどうしたら褒められるとか、俺を見ててほしいとか、染みついた下っ端根性から抜け出せていない。自己承認欲求が強いのだ。まぁ、メギドなんて皆が自己承認欲求の塊みてぇなもんだけどよ。自分が正しいと思っているような奴らの集まりだ。その中でもコイツは人に褒められたいって気持ちが強いタイプだ。だから、褒めて欲しい人のことを良く観察している。そして出来る奴ならここで、余計な口出しをするように第三者(つまり俺)に説教たれようなんて考えないんだろうけど、コイツは違う。視野が狭いから、こうして、自身の正しさが、ソロモンのためになると思って余計な口出しまでしてくるのだ。
喋りじゃ俺に勝てないってのに、健気だよなぁ。
「そんなんわかってるわ。けど、俺の独り占めしたいと、お前の独り占めしたいは違うやろ」
なんだ、コイツ。俺とソロモン王が肉体関係ある上で喋ってきたな。知っても知らねぇふりしろよ。いや、アイツもなに勝手に喋ってんだよ。
「違うかもなぁ。けど、安心しろよ。俺ははなっから独り占めする気なんてねぇぜ」
「なんや。そないなんか」
「ああ」
俺も酔ってるから少しだけ口が軽いな。普通ならここは調停者として話を曖昧にぼやかしてトンズラする所だ。特にコイツみたいな奴は追ってまで説教しようとは思わねぇからさ。
独り占めか。
独り占めしたいかしたくないかって問われると、したいときもあるって感じなんだよな。胸が締め付けられるような気がするときもある。一層のこと全て終わったら小さな箱の中に閉じ込めて買ってしまおうかって考えるときもある。その身体が朽ちて魂だけの存在のなったら、俺もランタンでコイツのことを飼って永遠を生きるなんてのもありかも知れないと思う。
けど、それは、ソロモン王が望んでいることじゃないことくらい知っている。だから、全部、俺の妄想で終わる予定だけの話だ。
「それに、本当に独り占めしたいならとっくの昔に閉じ込めてるさ」
それが出来て、尚且つ独り占めしても魅力を損なわない男ならさ。
アイツは独り占め出来ねぇから良いんだよ。そういう奴だろ。誰かの為とは言わないが馬鹿がつき呆れて放っておけなくなる善人面を突き進んでいる奴だ。籠に入れて可愛がっても意味がない。その良さは発揮されない。
ホントは身体の関係も持つつもりはなくて。完全な成り行きで。据え膳食わぬは男の恥という言葉があるように、ペロリと召し上がってしまった俺にも問題はあるわけだが。
「気持ちも言うつもりはねぇよ」
好きとか愛しているとか、そういう類の言葉はさ。
言えないから欲しくなって、言えないから会いたくなくなる時もあるけれど。
ああ、言わんのやったら離したりとか、こいつは口だしてきそうだな。馬鹿かよ。完璧に手放すことが出来るならもうやってるっての。
そんな風に笑うと「こりゃ堪忍な」と謝られ、また酒を飲んでいた。