自分に才能がないって気づいたのは何歳の時だろうって、そんな途方もないことを考える時がある。
オーディションに落ちまくった日。
背丈の成長に限界を感じた日。
顔の造形が自分の目指すアイドルとまるで違うと知った日。
ダンスがなかなか上達しないと知った日。
歌もとびぬけて上手くないと知った日。
薄々気づいていた、自分はなんでも器用に出来るけれど、特別秀でた才能はもっていないと知った日。
いや、違うか。もっと、前か。それはきっと、自分に自我が目覚めてからだ。誰かと自分を比べることを知った日。自分と弟が、別の生き物なんだと知った、そんな日からだ。
一織はオレの弟だ。
オレは兄だから、だから、一織のことが好きだけど、もしかしたら兄弟じゃなかったら、一織のことはすげぇ嫌いだったかもしれない。加えて、自分より才能のある人間なんて全員大嫌いなクソ野郎になっていたかも知れない。いや、今でも好きじゃねぇけどさ。自分が出来ないことを出来る人間って。なんでだよ。すげぇ、悔しい。奥歯を噛み締めたくなる。
オレはさ。
こんなに才能がなくて、なのに、あんたはこんなに才能があって、なんでこんな現状で満足してんだよ! って理不尽を何重にも覆った言葉を吐き捨てているかも知れない。けど、そうはならなかった。
なぜなら、オレには弟がいたから。どんなに、オレが欲しい才能を持っていて、オレより優れた人間でも、悩むし挫折するし、落ち込むし、色んなことで悩んで色んなことを好きになって、嫌いになるってことを一織がオレに教えてくれたから。一織はオレが多分生まれて初めて味わった挫折の象徴だった。けど、一織がいたから諦めないでいれた。不貞腐れずに、自分が頑張るって決めたことを、才能の限界を決めつけるんじゃなくて、もがき続ければ自然と結果は出てくるものだと。そう信じて突き進むことが出来た。オレは本当は、心がそんなに強くないから、オレのことを兄だと慕ってきらきらと輝いた目で見つめてくる、一織の双眸はオレには重たい日もあったけど、それくらいでちょうど良かったんだって今なら思える。こいつが誇れる兄になろう、なんてことは考えたことはない。ただ、一織はオレの弟である以前に、オレのファンでもあるんだ。だから、ファンを悲しませる行動はやめようって。オレがステージの上に立つ時、まさか一緒に一織も立っているとは思わなかったけれど、お前が弟で、オレのファンで、今は同じグループのメンバーでほんとによかったって思ってんだぜ。