夏黄文と紅玉 | ナノ
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へにゃへにゃのしな垂れた髪の毛は、埃が付着しており、顔が見られなかった。姫が背負う宿命を示したような、容姿であり、私はそのような姫の姿に自身の野心が一度は消えかけたものだ。
私の手により姫を再生させた。

「立場というのは簡単に逆転するものね、夏黄文」

美しくなられた姫様は扇を口元に当てながらお喋りになりました。姫の視線は常に遠くを見ておられた。私は姫がこのように、行く宛てもなく、一人、虚空を見つめ溜息を吐き出している時、この方が本当に独りぼっちだった経験がある方なのだということを実感する。誰かに頼るということを知らず、放置され、埋没され、いつしか、部屋の隅っこで丸まった埃のように小さく蹲っている。幼く憐れな私の姫君の姿が。

「私が第八皇女になったのも一瞬、白龍が家族を失ったのも一瞬、私がバルバッドで失態をおこし立場を危うくしてしまったのも一瞬だわ」

小さく口を開けれる。化粧が施された大人の笑みの作り方など、一緒に練習しましたのに、すでにお忘れになったようで、姫は子どものあどけないのに、誰にも頼る術を知らない震えた小鹿のような足で立っておられた。

「私はこれから、どうなるんだろう。夏黄文……――ごめんね。もう、弱音ばかり吐いてばかりね」

ええ、それは。小娘の戯言など仕事の一環、私が権力を握るための通過儀礼と考えれば耐え抜くことが出来ますので、お気になさらないで下さい。と、いう感情が表面上、私を覆う。私のこの野心が、姫様との会話はお仕事でのことなので、という言い訳をずっと胸の中で戯言を漏らし続ける。しかし、私とて、愚かではない。科挙に受かり、正式に姫の護衛として任命された男である。
私は、自分の本心が、この姫の弱音を聞けて幸いだと思っている。一人で、隅っこで丸まって泣かれているより、随分、ましだと思っている。私はこの姫のことが、けして嫌いではないのだ。

「大丈夫です。姫様。必ずや、なんとかしてみせます」
「ありがとう、夏黄文。けど、もうちょっと自分で頑張ってみる。そうして、なにも出来なくなったらまた、逃げてしまうのかも知れないけど」


あなたがいつ逃げましたか。一度、いつも後ろには下がられます。怖くなって、判らないことから、逃げてしまいそうになります。けれど、貴方は常に戦ってこられてでしょう。
か細い腕で。自身の立場を確率させるために。傷だらけになって、力を手に入れられました。白瑛のことを常にズルイ! といいながらも、羨望の眼差しで見つめており、本当は憧れと嫉妬で苦しんでいたことも。バルバッドのことだって、引き受けた任務を全うされたではありませんか。

「姫は逃げていません」

私が育てた姫は――
私の権力に必要な駒は――

「ありがとう、夏黄文ちゃん」

私にはないものばかりを、いつも自分の力でお持ちになってきました。