「好きなんじゃない?」
 と四葉環の口から紡がれたのは、MEZZO“で三か月連続表紙を飾ることになっている、ティーン向けの雑誌の撮影時だった。
春から夏にかけての三か月を今日中にまとめて撮影するということもあり、慌ただしい雰囲気が現場には流れていた。カメラチェックを兼ねての休憩時。MEZZO“である環と逢坂壮五は用意されたパイプ椅子に腰かけ、慌ただしい現場を眺めていた。会話は普段から必要最低限しかされず、けれど、三年目との付き合いになると、その会話の少なさを不快に感じたことはなかった。寧ろ、一年目より関係は良好になり、お互いに雑談する内容があれば話すこともある。しかしながら、たいてい、環は好物である王様プリンを食べていると休憩時間は終わるし、壮五もRe:valeやTRIGGERといった自分の好きなアーティストの曲を聞いて休憩時間を終えることが多い。
「え、ごめんなんて言ったの?」
 イヤホンを耳から外し、壮五は環に問いかける。環は少しだけ頬を膨らませて聞いていなかったことを怒ったが、首を振って少しだけ大きな声を出し、耳元で「好きなんじゃないの? ばんちゃんのこと」と告げた。
 途端、壮五は顔を赤く染めた。好きと言われて、顔を上げると監督とのカメラチェックに立ち会っている、MEZZO“のマネージャーでもあり小鳥遊事務所の事務員でもある、大神万理と目があった。丁度カメラチェックが終わったのだろう。万理はにこやかな笑みを浮かべながらこちらに向かってくる。一歩、一歩普通に近づいてくるだけなのに、壮五は心臓をばくばくさせながら、紅潮した顔を元には戻せなかった。
「おつかれ、二人とも。監督OKだって。このまま次は夏の撮影に移るから、そろそろ着替えに行こうか」
 普段なら、壮五は「事務所チェックありがとうございます。わかりました。環くん、行こうか」という所だが、思考を停止した頭は通常の行動が出来ず、こくりと首だけを下げ、環の首根っこを掴んで、楽屋へと戻っていった。