「口っていうのは性器の一つだと思うんだよ。穴さえあれば人はペニスを入れることが出来るからねぇ。どうだい、モモ。僕のおちんちんは美味しい?」

ひゅっと喉に咥えさせられたペニスを抜かれそう尋ねられた。咥内に空気が入り込んできて、先ほど吐き出された粘着いた精液と喉元で絡まりあい、噎せ返る。げほげほと床に嘔吐するように吐き出すと、月雲はオレの前髪を引っ張り上げて、顔を強制的に上へと向かせた。

「めちゃくちゃ不味いよ。洗ったのいつ? ちゃんとおちんちんも洗わなきゃダメだよ」
「そう? 美味しいかと思ったんだけど、残念だなぁ。モモなら咥え慣れてると思ったのに。枕営業。し慣れてるでしょう?」

オレにどういうイメージ持ってんだよ、この変態が! という暴言を胸元で飲み込んでにっこり微笑む。「オレがそんなことしてるわけないじゃないですか――!」とワザとらしく声色高めで喋ってやった。
売り出し中の時、呼ばれればそりゃぁほいさっさと出かけていって、翌日、酔い潰れるなんてことも良くあった。なんとかRe:valeが潰れないため、おかりんの、今のオレ達を支えてくれた事務所でユキと一緒に頑張るため、なんだってした。時にはプライドをへし折って笑い取りにいって、後になってあれは酷かったよねぇとちょっぴり落ち込んだり情けなくなったりもした。
情けない自分の姿を客観的に眺めると、どうしても、バンさんならもっと上手くやっただろうになぁ……みたいな気持ちが湧き出してきて、自分とバンさんを比較して良く落ち込んだ。まぁ、落ち込んでも自分の為にはならないから、そういう余計な感情は胸の奥底に引っ込めて見て見ぬふりをしてきたんだけど。
色んな「情けないこと」に該当する媚の売り方はしてきたけど、枕営業はさすがのモモちゃんもしたことはなかった。自分の身体を売ってもオレとしては微塵も傷つかないんだけど、Re:valeの百としてはやっぱりダメかなぁって思ったからさ。ただの接待なら、世間的にも良くある話だね、で済まされる問題だし、寧ろRe:valeでもそんな努力してたんだ! とか好感度上がっちゃうかもしれないよね。けど、枕営業っていうか性的なことに関わる話題ってこの業界じゃ一種のタブーみたいな。スキャンダルの的になっちゃう。しかも、たいてい、どんなことに対しても批判的なイメージを世間にばら撒かれる。だから、やらなかった。Re:valeが、ユキさんが、そんな目で見られる可能性があることをオレが進んで行うということは、想像するだけで吐き気がするものだ。

「じゃあ、モモの口はまだ処女なのかい? それともユキに抱かれた?」
「ユキさんを侮辱すんなよ」
「ああ、怖い、怖い。モモはいつだってそうだねぇ。ユキの話題になると目の色を変える。自分がどれだけ酷いことを言われてもスルーして、その賢い笑顔を張り付けているっていうのに。ユキのことをちょっとでも僕が話すと、人を殺しそうな目をする」
「モモちゃんにとってユキは特別だからしょうがないでしょ」

殴ってやりたいのを我慢して月雲お好みの笑顔を張り付けてやる。実際殴れないしね。両手は背中で縛られてるし、足首もご丁寧に縛られてるし、今のオレに体の自由はないに等しい。酷いよね。友達の家にちょっとご飯を食べにきただけなのに一服盛られて眠らされたと思ったら、目を開けたらペニスを口に突っ込まれてイマラチオされてるなんて。モモちゃん窒息しちゃうよ。死んじゃったらどうするの! って目が覚めて早々に突っ込んでやったけど、この男、死んでもいいんよ、みたいな顔で微笑むから久しぶりに背中がぞっとした。本当に気持ち悪いものを見た時に感覚だ。

「ねぇ、了さん。なんでオレのことレイプしようって思ったの? 気まぐれ?」

そう尋ねると月雲は首を傾げて目を見開いた。そこに意味なんてないとでも言いたげな光景だ。それとも言うまでもないって顔かな。興味があったから。自分の欲望を満たすための行いだから。特に意味なんてない。オレをレイプしたからって、オレがこの人を告発出来ないってこととかは計算に入れてるし、オレ達の関係が今後とも変わらず、まるで何事もなかったかのように続いていくっていうのもこの人は知っている。Re:valeの百はそうする必要性があるからね。けど、オレが傷ついたりとか、オレのトラウマになったりとか、そういう他者の気持ちを、目の前にいる男は何一つ配慮していない。
あ――あ、ついてないなぁって思ってたら、オレの視界は回転して、天井を眺めた。尻穴にローションが塗られえていく。慣らしてくれるんだ? と尋ねると、僕が痛いのは嫌だからね、と想像通りの言葉が返ってきた。
ずぶりと、ペニスを尻の中に入れられて、アンタは痛くないかも知れないけど、オレは死ぬほど痛いし、寧ろ死ぬと思いながら、奥歯を噛み締めた。




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