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「楽の部屋は白いんだろうね」
と意味深な問いかけを九条天が投げかけたのはほんの数刻前のことだった。八乙女楽は頭を傾げ、どういう意味だという眼差しを向けるが、呆れたように天はため息を放ち、その場を後にした。
楽はこういった、天のどこか他人を見下すような態度を取るのが好きではなかった。勿論、馬鹿にしてもいいだけの実力と努力をしている男なのだと知っているので許せるのだが、まるで自分の愚鈍さを口に出さずとも注意されているようで腹が立った。同じグループである十に言わせれば「楽と天は本当に仲がいいよな」ということらしいが、一体、どこを切り取ればあの能天気な男は自分と九条天が親しく見えるのか教えて欲しいくらいだった。
「部屋が白いねぇ」
それでも意味がない言葉を吐く男ではないと知っているので、天に言われた言葉を逐一、楽は脳内で繰り返して、考えてみたが、何度考えたところで、その答えの意味にたどり着けなかった。


「おい、どういう意味だったんだよ。昨日の」
結局、一日経っても理解できなかった楽は九条天に再び問いただしてみることにした。天はじとっと冷たい眼差しをこちらに向け、多忙な身でありながら、そんなことを丸一日考えていたのかと呆れるようにため息を吐き出す。
「比喩表現だよ。君、言葉を正面からしかとらえられないの直した方がいいよ」
親切な忠告のように聞こえるが最大限の侮辱を孕んでいると楽は知っていたので、拳をぎゅっと握りしめた。常に上から目線で何様のつもりだコイツ! と腹を立てて、天を睨みつけ、どういう言葉で切り返してやろうかと考えたが、じぃっと睨んでいると、天が時々、ふと、雑誌や広告、そして自分たちの前でもほとんど見せない顔を見せたことに気づく。
(ああ、あれか。七瀬関連の何かなのか)
と、そこで楽はふと気づいた。こういう、今まで自分が知らない天の一面を見る時、たいていが七瀬陸関連のものだった。双子の弟である陸が話す天がまるで自分の知っている男とは被らないものだが、確かにそういう窮屈な思いをしながらも七瀬陸の兄として天使のように振舞ってきたことは間違いない事実なのだろうと、こういう顔を覗き見するときに思ってしまう。最近、特にひどいな。七瀬陸の方は以前と比べ、兄からの離別を果たしつつあるが、天に至ってはまるで離れていく七瀬陸を惜しむかのように、IDOLISH7の七瀬陸ではなく、自分の弟の七瀬陸であるという眼差しで彼の事を見ることがある。
しかし、七瀬関係だと分かったところで、楽には相変わらず、なぜ自分がそしておそらく、七瀬陸が白い部屋の持ち主だというような言い方をするのだろうか。
「あのよぉ、よくわかんねぇけど、お前もくればいいだろう。俺の部屋に。白い部屋に来ちまえば、お前も白い部屋の住人じゃねぇか」
臆面もなくそう告げると、九条は再び楽のことを睨んで見せたが、先ほどまでのようにあ切れた顔は孕んでいなかった。どちらかというよりも、意味も分かって無い癖によく言えたねという諦めの気持ちに近い顔をしていた。
「白い部屋はとてもきれいな部屋なんだよ」
「だったらお前が来ても問題ないだろう」
楽がそうさらりというと、天は珍しく笑い声をこらえずに、はははと漏らした。