僕はね、自分が持っていないものを持っている人が好きなんですよ。多分。
いや、好きと言うより憧れるというのかな。一緒にいて楽しい子はどちらかというと、自分と近いものを持った子で。けど、これは当たり前かな。誰だって自分と同じ感性を持った人に惹かれるでしょう。僕なんかと同じ感性を持っているなんて、その子にしたら失礼かもしれないけれど、一緒にいて落ち着くという意味合いでは、少しだけ僕と似通った部分があった人が好いんだと思う。例えば陸くんとか。彼は僕のことを慕ってくれていて、僕も彼のことをまるで弟のように慕っている。同じグループ内で陸くんのことが一番好きだし、プライベートで一緒にいる時間も多いと思う。けど陸くんみたいな子は誰からも愛される才能があるし、僕が一方的に一番親しいと思ったり、気が合うと思い込んでいるだけかもしれないんだけど。まぁ、それはあまり考えないようにしているんだ。なんで、僕と陸くんの気が合うのか、それは育ってきた環境が少しだけ似ているからだと思う。僕の家はまるで牢獄のように冷たくて、家族はずっと一緒にいるのに、僕は大切にされている筈なのに、僕は窒息してしまうかと思うほど苦しくて。陸くんは家族には大切に大切にされてきて、だからこそ、あんなふうに誰かの愛を知っている子供として育つことが出来たんだろうけど、緩やかな鉄格子は見えないのに、まるで檻の中に入れられていたという意味では同じだろうなぁと、そう思っているんだ。そういう苦しさを経験していたし、何よりも、誰かに優しくしたい僕と優しくされることに慣れている陸くんとでは需要と供給が一致していて一緒にいて気が楽なんだと思う。
憧れる人はそうじゃない。
僕とはまるで一致しないような人に憧れる。例えば大和さんの俯瞰じみた視点とか僕にはないものだし、環くんの自分の感情に素直過ぎるのは僕にはない所だし。そういう、僕にはないけれど、何か魅力を持っているような人のことを、僕は嫌いには慣れないから、憧れてしまう。環くんとはそうだね。好きと嫌いとの真ん中のような関係だけど、おそらく僕は彼が僕よりも肉体的に大人であったのなら、彼の在り方をうんうんと言いながら受け入れていたかもしれないんだ。
そして、僕が今、もっとも憧れている人は小鳥遊事務所の事務員である、大神万理という男の人だった。彼はまるで底が見えない。そういう眼差しをしていて、何かと喋る度に「お前ってお金持ちの家の子だろう」というのが透けてしまう僕から見れば、これほどまでに過去のことが透けて見えない人は初めてだった。初めはそういう所に惹かれた。万理さんのまだ知らない過去のことを僕は知りたくて、けれど、知らないことがまるで美しいことかのように微笑み、覆い隠してしまえる深さを持った彼に憧れた。
そして、過去のことを僕が知り、彼がトップアイドルのRe:valeの片割れであったという事実が僕は彼のことを憧れの人だと遠くから見ていることが出来なくなり、もっともっと、彼のことが知りたくなった。どうして、そんな大きな過去があって、普通に暮らしていられるんですか。なんでもないよって顔をして、嘘を張り付けて平気な顔で笑えるんですか。
いつしか僕は彼のことを憧れよりももっと上の存在として見るようになってしまった。
これはまさしく愛だと思うんですけど、どう思いますか、万理さん