日向と影山♀ | ナノ
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指先が悴んでいる。日向の自転車籠に突っ込んである軍手を無理矢理奪って着けても良いのだが、流石の影山でも恋人の横で軍手を奪ってまで着用するのは恥ずかしかった。
母親から渡された赤いチェックのマフラーに顔を埋める。こんなに寒いのなら、鬱陶しいとか、怠惰とかを気にせず、ポニーテールにあげられた髪の毛を下ろして来ればよかった。肩にあたる程度のセミロングは寒さを緩和させる手助けをするだろう。今ここで、外しても良いが髪の毛がぐしゃぐしゃになるのは目に見えている。鞄の中を思い出して見ても、櫛などというお洒落女子必見のアイテムは入っていない。
ちろっと日向を見ると自転車を押しながら影山に歩幅を合わせていた。
二人乗りをして帰るかと提案したのは、二人が付き合う随分前のことで、小柄な日向の後ろに乗せられて夜道を下るのが当たり前のようになっていたのに、付き合い出してからというもの、妙な恥ずかしさに囚われて、日向が自転車を押し、影山がその横で歩くという形に収まっている。
付き合う前は腕を腰に回して身体を密着させていたかと思うと信じられないと影山は拳をきつく握る。認めたくないが無いに等しい胸なので、あたった所で何も感じなかったが、今はまた違う恥ずかしさがついてくるだろう。

「あ、寒い?」

指先に吐息を吹きかけていると、日向が覗きこんでくる。影山から見れば小柄な身体が動く。恥ずかしげもなく尋ねられると小柄な日向が大きく見える。
思春期特有の男子が持つ異性に対するもどかしさを跳ね除けるように、日向は平然と自分が装着していた手袋を外すと影山に渡す。

「小さいから入らねぇよ」
「な、入るって、伸びるから」

跳ね除けても、めげずに手袋を渡す。今度受け取らないと肩の力を落として拗ねるので影山はありがたく手袋を片方だけ受け取った。日向と触れ合わない左手に装着すると、もう片方の手袋を返して、右手を差し出す。
一瞬、日向はなんのことか理解出来ずに、顔を顰めたが、意味を理解して柔和に笑うと手袋を受け取り、差し出された手をぎゅっと握った。
気恥ずかしさに暫くの間、無言でいる。握っている方の手は凍てつく風にあてられて寒い筈なのに、手汗が湧き出てくる。じめっとして気持ち悪い筈なのに、握られた手を開放したいという気持ちは不思議と浮上しない。
日向の手は体形に見合わず小さくない。大きな男の手のひらをしている。バレーの手で鍛え抜かれた肉刺だらけの手のひらは硬くて、指先になるにつれ細くなっていく女の手と違い、太さもある。
対して影山の手はセッターをしているだけあって爪は整えられ強度を補強するためにトップコートが塗られてあった。何もしていない、お洒落に専念する女の子と比べると劣るが、しっかりとした女の手のひらだ。
室内競技だと言うのに夏から残る健康的に焼けた日向の手が影山の透き通るような皮膚と絡み合う。

「あ、あのさ」
「なんだよ」

駅へと向かう足を一時的に止め、背筋を伸ばして日向が叫ぶ。影山は今何時だと思ってんだコイツとか、深夜に足を侵入させそうな時間帯で叫ぶなよ近所迷惑な、と内心ツッコミを入れたが、震える声色に何も言わなかった。

「大晦日の夜って暇だよな? 影山って」

視線がこちらを見つめる。日向の目線の意味を察しられないほど、影山は子どもではなかった。
大晦日の夜、練習は五時で終わる。正月くらいゆっくりしろという監督の方針で、男女とも部活が休みだ。そもそも、教師たちとて正月くらいゆっくりと過ごしたい。
古豪復活を旗に全国を目指す身として休みは一日しか与えられなかったが、それでも、久しぶりの休みが男女バレー部共々、与えられていた。

「お、おう」

ぶっきら棒に応える。女の子らしさの欠片すらない応え方だ。一般的にいえば失格と首を切られてしまう。
日向はそれでも満足なようで歯を惜しみなく見せて笑った後に、安堵の息を吐き出した。男子高校生の心臓は内心、どきどきと心拍数をあげていた。
勿論、今、誘った意味は「大晦日の夜から正月にかけて一緒に過ごしませんか?」というアプローチであり、付き合って半年が過ぎた二人は、所謂、性的な関係に手を伸ばすという順調な交際の経過を辿っていた。

「俺の家……泊まりにくる? 母ちゃんたち、親戚の家へ行ってて、いないんだけど」

緊張で震える声色。日向は照れを隠すように後頭部を爪で引っ掻くと、どしゃーんと押していた自転車が倒れてしまった。
気まずさで、木枯らしの音だけが数瞬、耳朶を揺らしていく。日向は繋いでいた手を離して、転がり落ちてしまった荷物を拾い上げ、自転車を元の体勢へ立て直す。細々とした荷物も散らばってしまった為、自転車を止め、拾い出した。
しょうがねぇな、と影山もしゃがみ込み、地面に落下した荷物を拾った。
しゃがみ込んだ時にスカートの隙間からパンツが見えるとか、そういうサービスを影山に期待するのは間違いで、部活終わりの彼女は、スカートの下にしっかりとジャージを着込んでいる。
二人して黙々と、荷物を拾っていると、息が顔にかかるほど近い距離に顔が見えた。集中して拾い過ぎてしまったのだ。
どうしようと考えていると、そういえば先ほどの返事をしていないことに影山は気付いた。
答えは勿論「yes」だ。
数少ない友人に協力を仰げば、男の家に泊まり込むことを誤魔化すことが出来るだろう。今までバレーボール一筋で(まぁ今もバレーボール一筋なことに変わりはないのだが、日向と出会う前のバレーと出会った後でのバレーとでは彼女の中にある意味合いが異なってくるので、日向という存在を含んでバレーボール一筋と言って良いだろう)男っ気がなかった娘に彼氏が出来たと聞いて喜んだ両親だが、流石に「泊まる」ということは高校生の分際でなにを考えているんだと叱られることが眼に見えていた。

問題があるとすれば、一度、日向と性的な行為をしようとして失敗しているといった点だ。

忘れもしない今年のクリスマス。つい一週間前のことであり、恋人同士のクリスマス。練習で碌に祝えなかった影山の誕生日も兼ねて祝おうということで、半日練習を朝から熟した後、午後から夜にかけてデートした。
プランを考えたのは日向で、少女小説も真っ青なデートコースを用意してきた。
制服のまま荷物を駅のロッカーに置き動物園へ。匂いは臭く冬の寒空の中、閑散とした動物園を見て回った。人がいない動物園とは寂しいものだと、入園料500円を払う日向の後姿を見て、初めから期待はしていなかったが僅かに溜息を吐き出した。
しかし回りだすと楽しかった。一々、日向が動物に対してオーバーリアクションを取るものだから、餓鬼かと投げ捨てながらも、馬鹿高いテンションが自分を喜ばす為だということに途中から気づいた。
動物園内に設置されている明らかに子どもが乗る用の観覧車に押し込まれ、鞄の中から、もぞもぞとプレゼントを取り出された。
大人っぽい誕生日石がついたネックレスで「やっぱり似合う、可愛い! バレーの時とかは無理だからさ、デートの時とかにつけてきてよ」と言われた。いつも誰もが戸惑うような科白を躊躇なく述べる。これを日向が選んだのかと思うだけで、影山は嬉しくて堪らないのに、可愛いなんて言葉を告げられてしまっては嬉しいどころの話ではない。
こういう時に、自分より日向の方がずっと大人であると思う。影山は自分の感情を素直に吐き出すのが不得意だし、円滑なコミュニケーションも中々とれない。日向に対しても出会ったときから、悪態をついてばかりだ。
日向は違う。
言動こそ子供っぽいが、影山に比べるとずっと大人だ。仲の良い友達も多いし、煩い騒ぐだけの男子と違って、誰かを褒められる素直さを持っている。他者を認めるということを恥ずかしいと微塵も思っていないのだ。それは持って生まれたものか、日向を育てた家庭のお蔭か判らないが、影山は日向のそういう陽だまりにいるような素直さがとても好きだった。
夕陽で照らされた観覧車の中で良かったと安堵した。顔が夕陽に照らされていなければ、自分が嬉しくて真っ赤だということがすぐに判ってしまったからだ。
五時で閉園となる動物園を後にして、二人はイタリアンの店へと向かった。日向が予約していた筈だったのだが、上手く予約が出来ていなかったらしく、15分ほど待った。「ごめん」と謝る泣きそうな顔に「ったく」と漏らしながらも待っている間は暇ではなかった。会話が直ぐにバレーのことになってしまう互いの癖はもうどうにもならずに、盛り上がっていると店員に肩を叩かれ、二人して背筋を伸ばし震えた。入学したばかりのころ、男子部キャプテンである大地さんに怒られた経験が未だに根を引いている。
食事を済ますと、今度こそ予約はバッチリだという日向と共に、ホテルへ向かった。男子高校生が背伸びして、背伸びしてようやく支払えるであろうホテルは豪華なものではなかったが、二人にとって場所というのはたいして重要ではなかった。互いに今日こそは! と意気込んでいたので、ベッドが用意された個室であるならばどこでも良い。
シャワーを互いに浴びて、ベッドに腰掛ける。緊張で硬直した身体を解すように日向が喋りかけ、適当に影山も返事をした。ゆっくりと体が近づいてきて、優しいキスが降ってくる。自分の欲望を制御するように交わされたキスは不器用であったが、啄むように繰り返していると身体の力が抜けていく。
キスをしながら押し倒され、ベッドに後頭部がつくと、風呂上りで無防備な服を日向がおぼつかない手つきで脱がしていった。ブラジャーを目の前にして、脱がし方を戸惑う日向に「AVでは既に脱いでいるからなぁ」という科白をはかれ、頬っぺたを引っ叩くと、土下座で謝罪された。「許す」という一言で行為は再会し、無いに等しい影山の胸に顔を埋もれさした。乳首を舌でぺろりと舐めると、身体がびくん、可愛らしい反応を見せる。
こんな小さな胸で良いのかよ、興奮しねぇんじゃねぇか、と不安に思っていた影山の杞憂を吹き飛ばすように、快楽に反応した足を動かすと、大きくなった日向の肉棒が膝にあたった。
顔を真っ赤にして「お前!」と叫んでしまう。「まぁ男だから、ごめん。けど影山可愛いんだもん」とこれまた素直に男前な返事をされてしまい、心臓が高鳴る。不器用な手つきが愛おしくて、先ほどのAV発言といい、意外とモテる日向にとって(それこそ運動神経は優れているので、小中は「スポーツが出来てそこそこ顔が整っている人間がモテる」という世界だから、女性からバレンタインチョコを貰った経験だってあるだろう。盛んで積極的な女生徒ならば、告白だってあったかも知れない)初めての相手は自分なのだということが嬉しい。
影山はわりと頻繁に名も知らず背景に過ぎない凡庸で自分のことが優れた人間だと勘違いしている男子に「なぜ日向と付き合っているから」と尋ねられる。いわゆる、モテる人間だと自負している野郎だ。
上辺だけ見れば影山の顔は美しく整っている。切れ長な双眸に睫毛がついていて、薄すぎず厚すぎない唇は艶やかだ。長くボリュームがない細い糸のような髪の毛だって制服を着て、適当にゴムでまとめただけなのに、鬱陶しくみえない。胸はなくてもスラリと長いモデルのような手足は男子から注目の的だった。
口ではそんな無粋なことを聞いてくる男子に「お前に答える義務はない」と素っ気なく返答するが、心の中で「お前みたいなやつじゃないからだ」と呟いている。日向は子どもっぽくて馬鹿みたいに素直だが、けして誰かのことを影でねちねち言う粘着質な一面は持っていないし、意外と気配りも上手だ。純真ですぐにへこたれるくせに、泥だらけの中で立ち上がることを恥と感じていない。そういう所が、他の男は滅多に持っていない、日向の良い所だ。

「痛い?」「痛くない?」というやり取りをしている間に、影山はぼんやりとそんなことを考えていた。パンツを脱がされ、下着に指先を滑り込まされる。ぎゅっと自分の手のひらを握っていると「俺の、肩、回してもいいから」と口籠りながらも、伝えてくれた。遠慮なく、手を肩に廻し、ローションで濡らされた膣に指先を挿入させられた。緊張で膣がぎゅうぎゅうっと締め付ける。日向の指先が誰にも触られたことのない影山の膣内に侵入する。真っ赤になり、もう、そんな愛撫をするよりも早くひとつになりたいという欲求がもくもく湧き出した。手をのばして「もう、いい」と擦れた声で囁く。慌てる日向は「けど一生懸命慣らしておかないと危ないって!」と喚いていたが「大丈夫」と押し切った。
その結果、二人の初セックスは失敗に終わった。
肉棒は膣内に入らずに、痛いと泣き叫ぶ影山、達してしまう日向と悲惨な状態が広がっていた。互いに「自分のせいだ」と終わった後で責めて碌に話も出来ず無言で別れた。痛々しい経験である。
だから影山は日向がめげずに誘ってくれたことが嬉しくもあったが、不安でたまらなくもあった。またあんなことがあったらどうしよう……という気持ちが心を過る。「イエス」に決まった返事が口の中から言葉となって出てこない。

「か、影山、あのさ嫌だったら良いから」
「違う。嫌じゃない、察しろクソ!」
「――嫌じゃなかったら、今度は二人で成功させようぜ」

嫌じゃないという一言で、恋人の本音を汲み取ると手を握って見せた。すぐに振り払われてしまったが、街灯の下で真っ赤に染まる影山の顔を見て、照れ隠しであることを日向は知る。
にかっと歯を見せながら、大晦日が楽しみだと胸を弾ませた。





時間はあっという間に過ぎるもので、気付けば大晦日になっていた。
練習を終わらせ今年一年の総締めとして、反省点を言い合ったあと、解散になった。
さぁ帰ってセックスでもしましょうか、という気分にはなれないし、日中からベッドの上で裸になるなんて体験をするには二人とも初心者過ぎた。いつものように自転車を押しながら、空腹を誤魔化す為に両親が握ってくれたおにぎりを頬張りながら帰路を辿った。山を越えなければならないので、今日は久しぶりに二人乗りかと、影山が、それはそれは怖い笑みを浮かべていると「帰ったら夜は鍋を食べよう」と提案を日向から持ちかけられた。

「料理なんて出来ねぇぞ。指を間違って切りたくないし」
「俺がするから平気!」
「お前、出来るの?」
「鍋って野菜切って煮るだけだろう。トマト鍋にしようぜ。それだったら味付けもパックの奴入れればいいし」
「パックって?」
「トマト鍋の元みたいな? 今だったら鍋シーズンだし安い」

女としての敗北を影山は一人でひそひそと感じながらもスーパーへ向かった。近所にある田舎を絵に描いたような一階だけのスーパーには旬の食材が売られていた。籠を影山が持とうとすると、日向が横から奪っていき、恒例の「俺がもつ!」「いや私が持つ!」という勝負事になったが、ジャンケンで勝負した日向が籠を持つようになった。あまり入れすぎると自転車に乗りきらなくなるので、家にあるものは省きながら籠の中に入れていく。
鍋シーズンの目立つポップを背景に山積みにされたトマト鍋の元や、キムチ鍋の元をみながら「これのことかよ」と影山は毒づく。実物を見れば、なにであるか合点がいったようだ。
牛肉は駄目だとか、二人でこの量は買い過ぎだとか、ぎゃーぎゃー煩く騒ぎながらレジへ進むとお会計は二人で割って千円くらいの量になった。

「買い過ぎたな」
「まぁ慣れた道だし今日は練習ちょっとしかしてないから大丈夫!」
「頑張って漕げよ」
「影山もしっかり捕まっておけよ」

籠の中に二人の荷物と買いたてほかほかの具材を詰め込むと自転車に乗って進み始めた。今日は肌寒いが、この日の約束を取り付けた日にはなかった手袋がある。日向は自分の手に軍手を装着させていた。どうやら怠惰で放り込まれていたわけではなく、自転車を漕ぐ時ようの防寒具だったようだ。確かに自転車に乗りスピードが増すと凍てつく風は冷たさを増大させていく。
今日は二人っきりなのだと、恋人の前でだけ発動される乙女モードで脳内を埋め尽くしながら日向の腰にぴったりくっつく。慣れ親しんだ道を小柄な体で漕いで行く。恋人同士になる以前より丁寧な漕ぎ方だとかいうのは、きっと自分の勘違いだと胸に止めた。


到着した日向の家は木造住宅の一軒屋で田舎のテレビとかで見る、農家の人が住んでいそうな家だというのが影山の感想だった。見渡す限り田圃が広がっていたし、車を止める車庫がやけに広かった。

「お邪魔します」

呟くように述べる。誰もいないと判っていても、恋人の家というだけで、緊張する。家の中は当たり前だけど日向の匂いで溢れていた。
靴を脱いで、軋む床を歩くと台所と居間がすぐに顔をだした。障子張りされた扉を横に開くとこじんまりとした台所が見える。日向は来ていたジャンパーや防寒具を脱ぎながらストーブの電源を押すと、影山の方へ手を差し伸べた。

「コート、かけてくるから、頂戴!」

コートではなく日向と同じジャンパーなのだが、日向にとって女子が着ているものは皆お洒落コートとして認識されているのだから仕方ない。マフラーとジャンパーを脱いで制服になる。渡されたジャンパーとマフラーは居間を抜けた先にある上着が密集した部屋へもっていかれて、ハンガーにかけられた。

「寒いからストーブの前で待っていてくれて良いよ」
「あ、けど、私も手伝う。手伝わせろ」
「え――じゃぁ、包丁使わない範囲でお願いする!」

言い出したら聞かないのでキャベツを千切って貰ったり鍋に投入されたトマト鍋の元を見ていてもらう係りを影山は任された。器用とは言い難いが日向も懸命な手つきで食材を適当な大きさに切っている。
家で収穫されたかぶを入れて、ウィンナー、鶏肉、キャベツ、じゃがいもなどを入れていくとトマト鍋が完成した。慣れない作業で時刻はすでに四時を回っており、夕飯には早く、昼食には遅い時間になったが二人して鍋を掻きこんだ。上品な食べ方など忘れて、おにぎりだけでもっていた空腹の身体にエネルギーを補充する。影山がキャベツを細かく切り過ぎたり、日向の切り方が雑すぎて繋がっていたりしたが、おいしかった。どうせなら年越し蕎麦を食べるべきだったということには、食べ終わってから気づいた。

「あ――食べた、食べた!」
「片付けも済んだな」

競争するように、どちらが早く皿を洗えるかという事を勝負した。お蔭ですっかり、もしかしたらご飯を食べるときより、家は綺麗だ。

「あ、風呂でも入る?」

つい友達にいうみたいに日向は軽い口ぶりで喋ってしまう。影山は顔を真っ赤にして意味を悟ると小さくこくり、と頷いた。
今日のメインは鍋ではなかったと思い出した所で、湧かされた風呂に入る。部活で流した汗が湯船に洗われる。日向がいつもここに浸かっているのかとかを妄想して逆上せてしまいそうになったが、寸前の所であがってパジャマに着替える。パジャマといってもいつも着ているジャージではなく、日向の家にお泊りすることを友人に話すと押し付けられた可愛らしいパジャマだ。夏でないのが残念だとしきりに彼女は話していたけれど、この露出が限界だ。下着も今日の為に可愛いのを用意した。以前はスポブラを一歩進化させただけのものだったが、今日はフリルがついた薄い水色のブラジャーだ。
着用する前にじっと眺めていると「ブラジャーは着けなくても良いか」という思考に至ってしまい、結局、パンツだけになってしまったが。どうせ脱がされるのならわざわざ恥ずかしい姿を見せることはない。
風呂からあがると日向の部屋へ案内された。二階の六畳程度の部屋にはベッドが角に置いてあり、バレーのポスターが壁にかかっている。「ちょっと待ってて!」と日向が告げて部屋を出て行くと、言葉通り早々と風呂をあとにして出てきた。
ベッドの上で正座をして向かい合う。
用意されたローションとゴムもセットで。
ごくり、と生唾を飲み込む。湯上りの顔を見るのはこの前、セックスを失敗した時以来だ。桜色に染まった頬っぺたが愛らしい。
日向の手が影山の頬っぺたに触れる。そのまま抱き寄せてキスをして、前と同じように服を脱がしていった。小さい胸にブラジャーがされていなかったことに対して、心の準備が出来ていなかった日向は飛び上がるが、影山は気にも留めず、目を瞑っている。ブラジャーくらいしておいてくれ! と叫びたい気持ちを抑え込んで、乳首を舐める。
びくっと反応した影山を見て日向は安堵すると、焦らず、ゆっくりと、けれど、以前のようにじれったい! とならないように。
上半身を脱がし終えたころには、影山の小さな乳首は勃っていた。硬くなったそこを指先で抓ると「ひっ」という声が漏れる。我慢している声を「我慢しないで」といえるほど互いに余裕はなく、乳首を愛撫しながら、伝わってくる、心音に耳を傾けた。

「影山、脱がしても良い?」
「っ――きくな、よ」
「うん、ごめん。けど、今度はちゃんと聞いておこうって思って」

前回は知らない間に脱がしてしまったのも失敗の原因ではないかと考えている日向は影山の承諾を得て、ズボンに手をかける。簡単に下にいきパンツ一丁になった影山の前回とは打って変わってパンツを見て、耳まで染まっていった。ノーブラだったくせに、パンツは可愛いのをはいているというギャップに日向の男が暴走を始めそうになるが、必死で理性を取り戻すように、前回の失敗を思い出す。
パンツの上から割れ目をなぞる。
つ――となぞっていくと、濡れていることがわかって、自分の愛撫が気持ち良かったことに日向は興奮を覚えた。

「パンツ濡れてる」
「お前、それはわざとだろう、ふざけんな、ボケ!」
「いやだって、前は漏れてなかったから」
「前はキンチョーしすぎ、た」

失敗しているといえ、一回経験したので心構えが違うぶん、前回より快楽を素直に享受できた。
口許を尖らせて述べる影山を見て、日向は思わずキスをしてしまった。啄むだけの軽いキスを繰り返しながら、舌を咥内にいれていく。未だ互いに慣れないディープキスだが、それでも気持ちが良い。
日向は影山の愛液を利用して下着の中に指をいれ、直接解していく。硬く閉じこもった膣は前回となんら変わらないが、前回と違って、羞恥に負けた影山に喋る暇を与えないよう唇で口を塞ぎながら、ゆっくりと解す。
ローションを片手で外そうとしたが、そんな器用なことは出来ず、ひっくり返してベッドの上に倒してしまったが、気にせずに、指先で救いとって挿入していく。
一方、影山は前回のように「はやく、はやく」と急かしてしまわないように、日向の舌を懸命に追った。相変わらず慣れていない手つきで、ローションはひっくり返すし、ひと肌まであたためられないまま塗られたローションは冷たかったが、塗られていく間に、自分の膣がすでに二本も日向の手を受け入れていることを知る。
くいっと指先をまげられ浅い所を責められると身体を飛び跳ねて軽く達してしまった。イくという経験を今まで性的なものに興味などなかった影山はしたことがなかったので、頭の中が真っ白になり、快楽が跳ねるように押し寄せたものを、なんと名づけてよいか判らず、頭を混乱させた。本当にバレー以外で役に立たない頭である。

「な、なんだ、今の」
「え、イったんじゃないかな」
「イ、 いくって?」
「わ、俺もわかんない、ごめん! 気持ち良くてば――って飛んじゃうこと。とにかく良いことだと思う」

息継ぎの合間に投げかけられた質問に日向は答える。イってくれたんだという喜びをじわじわ噛み締めながらも、なにも知らない恋人を抱きしめる。安心させると「大丈夫だから、続けろよ」と強がりな態度で返してきたが、無理はせず、慎重に指を埋もれさせていく。二本を三本に増やしたときに、はち切れそうなほど勃起した自分の肉棒を膣に宛がった。

「影山、いい?」

どきどきしながら日向は尋ねる。

「っ――もち、ろん」

どきどきしながら影山も答える。
とろとろに融かされたそこは、三本埋め込んでも痛さを感じなくなっていた。今ならば「痛い!」と前回のように発狂することもないだろう。
ゴムがきちんとつけられた肉棒が影山の中にはいってくる。ずんずんずん、と進んでいって、締め付けてしまうが気持ち良い。ぬるぬると愛液が湧き出してくる。処女膜に到達すると、僅かな切ない痛みがあったが、そんなものはすぐに嬉しさに変わった。
今まで、恋愛の「れ」の字もしらなかった。影山にとってバレーがあれば良かったし、恋愛に現を抜かす女子たちも、誰と誰が付き合っているだのという噂も、とにかく恋愛なんてものは下らないという決めつけが、緩んでいったのは日向と出会ってからだ。触れ合うだけで電流がぱちんと弾け飛ぶみたいに。セックスだって日向でなければこんなに幸福だと思う事もなかっただろう。
喘ぎ声を混じり合わせながら背中にしがみつく。もう達すると言う時が来るのを瞼を瞑って待った。









朝、起きると裸の日向が横に寝転がっていた。
起きろ! と頭を叩く。ぱちり、目をさまして、じっと自分を見つめる日向に、なに見てんだコイツと眉を顰めたが、よく自分を見れば裸であることに気付いて、理不尽にも再び頭を殴った。


「影山――今年もよろしく」

痛みに耐えながら新年を迎えたことに日向は挨拶をする。慌てて、頭を下げて「よろしく」とぶっきら棒に言った。
これから初詣に行こうかと話し合いながら、二人してあたたかい布団にくるまっていた。