愛されるために生まれてきたような子だった。保護するに値する弱弱しい身体も、笑えば花が咲くような笑顔も。どこまでも他者を好悪的に見ることが出来ない純真な性格も。比護し、愛でていくに相応しい対象だった。
ボクはそのことに対して、何の疑念も抱いたことはなかった。双子という自らの半身に対して、あの子が愛されることに嫉妬や羨望は抱かなかった。何故かというと、ボクもあの子のことを愛していたからだ。
ベッドの上で横たわる身体。荒い呼吸。心臓の音が耳を澄ませば聞こえてくる。発汗した皮膚が濡れて、パジャマに付着する。寝苦しそうに身体をねじる、あの子を見ながらボクはどうすればこの子が元気になってくれるかを、真剣に考えたものだ。あの子が元気になるために、あの子のためだけのアイドルになった。ボクが歌い、踊ると、あの子は満面の笑みを浮かべ、幼い紅葉のような手のひらをぱちぱち鳴らしたものだ。


「天にぃ」
名前を呼ばれる。
そう呼ばれた名前は幼いころとまったく変わらない筈なのに、今、ボクが大事に大事にしてきた大切な幼い子は、閉じこもっていた病室の一室からぬるりと、飛び出ようとしていた。ただ、ボクの手のひらを縋るように握り返してきたあの子の姿はそこにはなく、甘さを残しながらも、自己を精一杯主張した目をこちらにむけてきた。いや、昔から自己表現には長けている子だったけれど、身体がそれについていっていなかったのに。
数年姿を見なかったあの子は、ボクの可愛い大切な幼子とは違う一面をボクに見せてきた。
少しずつ、あの子がボクに近づく。ボクは近づいてほしくて、近づいてほしくなくて。相反する二つの心が犇めき合って存在している。

ボクはTRIGGERの九条天だ。口に出してあの子に対して主張するたびに、生唾と一緒に心の中に飲み込む。
だけど、同時にあの子の兄でもあるのだと。けして、口には出せない言葉を。