赤司は毎日のように、電話越しに俺に対して「好きだよ光樹。だから、早く僕を好きになってくれないか?」と呟いてくる。それは、本当に毎日だ。
洛山の練習だって、全国トップレベルだ。俺もカントクに相当扱かれているし、他の名門校に負けないくらい練習している自負はあるけれど、それは赤司だって一緒だ。二年生になり学年が一つ上がろうとも、自主練をした後、家に帰ってくるとご飯を無理やり腹の中に掻き込んで、風呂に入ってベッドで死んだように寝るの繰り返し。酷いときはお風呂の中で寝ている時だってあるのだ。
とても、毎日、誰かに電話をかける余裕なんてない。
一日くらい忘れても良さそうなのに、赤司が初めて俺に告白してきてくれた凍てつくような冬の日から(あれはちょうど、WCが終わって数日後のことだった)こうして、じめじめとした暑さが続く夏の日まで(今はちょうど蝉が鳴き終える季節で、インターハイが終わったころだ)赤司は一日だって忘れることなく「好きだよ光樹。だから、早く僕を好きになってくれないか?」と毎日、毎日、告白の電話を寄越してくるのだ。そもそも、俺は初めて告白されたとき、ものすごく舌を噛みながら「ぜ、ぜったいにむ、無理です! そもそも意味がワカラナイ!」と言って告白を、それは酷く振った筈なのに。赤司は「無理かどうかは付き合ってみないと分からない」と断言した後「君が僕の告白を振るには、僕がどんな人物であるか、まだ理解しようともしていないからだ。僕のことをもっと知ってくれ。それから答えをくれないか」と述べてきた。威圧ある言葉でそう頼み込まれれば、俺は首を縦に振るしかなく、こうして赤司の毎日電話で告白するという奇妙な行動は始まったのだ。
はじめのうちは、殆ど喋ったこともない赤司が、俺のことを好きなんて、気まぐれを起こしているな……としか考えなかったけど、さすがに、半年以上、毎日告白の電話をしてくるところを見ると、気まぐれではすまされない……ということを、俺は知ってしまった。
けど、どうして。
赤司は俺のどこが好きなんだろうか? 俺は才能を持たない。赤司やキセキの世代の面々のようにバスケの才能もない。性格も、普通だ。飛びぬけて良い人とか、そういうわけではない。じゃあなんで。赤司は俺のどこを好きになってくれたんだろうか。

「赤司」
『どうした光樹」
「いや……あのさ、赤司は俺のどこを好きになってくれたのかなぁって?」

いつものようにかかってくる電話。今日は風呂上りで、部屋に戻ると、ベッドの上に置いていた携帯が鳴った。赤司専用の音楽が鳴るので、すぐに赤司だということが分かる。
開口一番に気になって俺は、赤司に尋ねてしまった。いつも、赤司が俺に一言告白して、電話を切るから、告白される前に滑るこむように口を開いて尋ねる。
すると赤司は、一瞬言葉を詰まらした。珍しいことだ。この男は、俺が知る限り、滅多に動揺するということを知らないイメージだったから。

「光樹の好きな所。まぁ、一目惚れだったのは言うまでもないが、君は自分は才能がない人間だということを知っているだろう」
「え、まぁ」

ぐさっと直球で来た。普通、人に才能がないなんてセリフ吐けないものだと思うけど。俺には才能がないのは確かだと思う。俺が今までの人生の中で一番努力したことって、バスケだと思うんだけど、一番努力したからこそ、自分には才能がないんだってことを断言出来てしまうのだ。俺がどれだけ努力した所で、赤司とか、黒子とか火神とかには敵わないんだって。知ってしまっている。だけど……――

「だからと言って、努力することを辞めないだろう。僕は君のそういう所が一番好きなのかも知れない。僕には一番ない所だ。逃げ出すこともなく、自分を頑張っているから、と甘やかすのでもなく、もう少しうまくなれるかもしれない。ただ、それだけでバスケが出来る所が。そういう人間は中々居ないものでね。尊敬すらするよ」

努力は辞めたくない。そう思っていた胸の内を暴かれてしまったかのような言葉に、俺は顔を上げた。瞬きを繰り返す。この、間抜けな顔を、電話越しの赤司に見られなくて良かった、と安堵しながら。
いや、だって、あの赤司が、俺にそんな言葉を送ってくれるなんて、想像すらしていなかったのだ。
赤司は凄いやつだ。バスケの才能だってそうだし、一年の時から、名門校の主将でいる、そのリーダーシップ性も長けている。顔だって端正な顔立ちでカッコイイし、教養も身についているのが言動で分かる(たまにとんでもない行動をとるけど)頭も相当いいんだろう。
しかも、俺みたいな奴にでも、褒めることが出来るんだ。俺なんて、明らかに自分より劣っているように見える人間の、優れた一面を見つけて、平気な顔で褒める。中々出来ないことだと思う。普通だったら、自分より下の人間がいることに安堵する筈だ。なのに、貪欲に、誰かの良い一面を見つけて吸収しようとしている。

「好きだよ光樹。だから、早く僕を好きになってくれないか?」

言葉に詰まる。
正直、今、それを口にしてくるのか? というタイミングだった。俺は力が抜け、ベッドの上に寝転んでしまった。顔を隠すようにシーツに顔をうずめた。

「赤司、そろそろ、降参しそう。君のこと好きになりそうなんだけど」

赤司と喋るたび、喋るたびに、赤司へ惹かれていくのを否定できなくてついに言葉に出して告げてしまった。
すると、電話越しに、赤司の快活に笑う声が聞こえた。笑うなよ。

「いや、すまない。ようやくか……と思うと嬉しくてね。言い続けていて良かったよ。光樹。始めはその気持ち、もしかしたら嘘かもしれない。僕に言われ続けて錯覚しているだけかもしれない。けど、もう少ししたら、君は本当に僕のことを好きになる」

赤司はこれは予言だよ? というように伝えてきたけど、それは違う。予言というよりも、もう本当に好きになってしまっているのだから。ただ、事実を口にしているだけなんだ。
ああ、けど、俺が「これは思い込みなんかじゃないよ」って口にするまでは確かにもう少しだけかかりそうだ。