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食堂で日替わり定食頼んだは良いものの、もうちょっとボリューム出せねぇのかヨ! って唐揚げの量が少ねぇから定食睨みつけていたら、俺より最悪な顔で食堂の隅っこで80円の素うどんを啜る奴の姿が見えて溜息が見えた。別に俺もどうでもイイ奴だったらほっておくヨ! けどさぁ、普段はすげぇ能天気な小野田チャンだったら放っておくと、こっちの罪悪感まで刺激されて飯が不味くなりそうだから、仕方なく近寄って声をかけた。

「よう、小野田チャン」
「あ、荒北さん!」

声をかけられて驚いた小野田チャンは肩を震わせ、まるで出会った当初みてぇなリアクションをとられた。いや、未だにか。大学に小野田チャンが入ってきたばかりの頃はそりゃ酷かった。インハイで協調して以降はちょっと俺の印象もマシになったって、ぶっちゃけ思っていたんだけど、金城に誘われたって理由で洋南に入学してきた当初の小野田チャンは異常ってくらい俺にビビってた。怖くて怖くて食べられちゃいそうな人です! って印象は、どーやら、払拭できたわけじゃないみたいで、俺が横に座るだけで、怖がっちゃダメだ、怖がっちゃダメだって自己暗示かける小野田チャンの姿が見えて、いい加減慣れロよ、ウゼーと何度か思ったんだが、半年以上一緒にペダル回してようやく小野田チャンも俺に慣れたみて――だ。いや、練習の最中とかは慣れる以前からすげぇ図々しく人に尋ねてきたんだけど、練習終わったら脅えた小動物に戻っちゃっていたからネ。ほんと、半年の間、俺は殴らず耐えたと思うぜ。福ちゃんには褒めて欲しいくらいだヨ。

「ど――した。落ち込んだ顔して」
「え、はい、あ、あ、あの? わ、わかっちゃいましたか??」
「動揺しすぎだロ」

呆れるくらい動揺していた小野田チャンを注意すると顔を真っ赤にして、泣きそうな顔された。慰めに来たのに、こっちが悪いことしたみたいで、気まずい。心無しか周囲の視線も突き刺さってくる。

「あ――アレだ。俺が言い難かったら真波のヤロ―にでも言えよ」

唐揚げを口に含みながらムカつくくらい能天気な顔をした後輩の顔を思い出す。真波の野郎、坂道くんと今度は同じチームで漕ぎたい! とかいう理由で、うちの大学受験しやがったんだよな。推薦とかなかった筈なのに、謎の力で受験あっさり合格して、お陰で今年の洋南はクライマーの層がめちゃくちゃ厚い。そりゃ、インハイ優勝者が二名も居るんだからいろんな戦略が組めて、まるでコレを狙っていたみてぇな金城はお陰ですげぇ上機嫌だ。部室でオーダー決めている時とか、鼻歌交じりの時とかあるし。ほんと、アイツ腹ったつナァ。

「ま、真波、く、くんですか」

え、ちょ、マジかよぉ。
いつもだったら真波の話降れば、すげぇ能天気な顔で食らいついてくる癖に今日は満面の笑みじゃナイどころか、どう考えても俺が地雷踏んじゃったネ! って顔をしていて、あ――ほんと、こんな面倒な案件に関わるんじゃなかって絶賛後悔中だよ、コノヤロ。
なんだよ、真波と喧嘩とか。こいつら不思議ちゃんズがどうやって喧嘩するかってことが俺にはもう想像出来ねぇよ。普段は喧嘩から程遠いくらい仲良しちゃんで、自主練組むと絶対二人で山登りに行っているし、学部は違うみたいだから、授業中まで一緒ってわけじゃないし、個々に友達もいるみたいだから、四六時中べったりって訳じゃないケド、お互いが顔を見合わせれば「顔を見られるだけで幸せ!」っていう相思相愛具合を見せているのに。どうやって喧嘩したの。マジで。

「喧嘩ァ?」

はぁと溜息を吐きだして尋ねると肩を震わせちゃったから、コリャもう100%喧嘩したってことで間違いなさそうだ。あ――多分、ココにいるのが俺じゃなくて金城だったらもっと上手に小野田チャンから喧嘩の原因を聞き出して、どうすれば仲直り出来るのか? っていう小学校の先生みたいに完璧に縁を上手にとりもってその場を抑えてくれるんだろうケド、俺はどうすればいいのか思い付かないヨ。

「ぼ、僕が悪いんです。僕が、無神経だった、か、ら」
「イヤ、喧嘩なんでしょォ? 小野田チャン一人が悪いってこたぁナイだろ」
「け、けど、僕が」
「あ―――! もう! ウゼェ! んな、落ち込むなよ! 俺の唐揚げ一個やるから」

小野田チャンのうどんに唐揚げを一個放り投げる。ただでさえ少ない唐揚げが俺の皿から消えたわけだけど、それでちょっと落ち着いた小野田チャンが「か、唐揚げ、僕も好きです」と言って口に頬張っているので270円の日替わり定食の力も侮れないんじゃナイ?

結局、その日は喧嘩の原因聞くこと出来なかった。予鈴が鳴って三限に授業入っている小野田チャンは慌てて食器を返却して食堂を出ていっちゃったからネ。
俺は小野田チャンの後ろ姿を見ながらどうせ喧嘩なんて一日もすりゃ仲直りするし、長引いても一週間くらいじゃナイ? と甘くみていた。だって、男同士の喧嘩なんて言いたいこと言い合って、一発頬っぺたに拳ブチ込めばそれで終わるだろうが。そりゃ、新開のとか見ていると女と男の間で起こる喧嘩は長いしねちゃねちゃしているし、面倒なのが多いしんだろうネってのはわかるけど。
真波と小野田チャンは男同士だし、しかもコイツ等には言葉で通じねぇことがあるんだったら一緒にペダル回せば伝わるんだから、長引くわけがないし、明日にでもホモかよぉってからかいたくなるラブラブっぷりを俺らに見せつけてくれるんじゃナイ? ってそう楽観視していた。


けど、事はそう簡単には進まなかった。
二週間以上経っても小野田チャンと真波は喧嘩したままだった。しかもタチが悪いことに、女と男が喧嘩する時みたいにねちゃねちゃしたやつをだ。表面上、怒っているわけじゃないケド、真波はいつも自主練の時小野田チャンと組んでいたのに、違う奴と組みだして山登りに行ったり、小野田チャンが話しかけたらいつも全開の笑みぶちかましてくるのに、不機嫌な態度で接したり。見ていて胸糞悪くなるような態度ばかりとってやがる。
ぶっちゃけ腹が立つ。
怒りが身体中に回ってきて、真波の頭殴りたくなるし、一度拒否られたくらいで、すごすごと引く小野田チャンにも腹が立って仕方ない。
真波ィ! お前はもっと小野田チャンに対する態度良くしやがれ! 言いたいことがあるなら、顔をみてはっきり言えよ! って吐き出したいし、小野田チャンに向かってはお前さぁ一度拒否られた程度で下がるな! んなんだから、真波が調子のるし仲直りしたいんだったら誰かを避けるんじゃなく真正面からぶつかれヨ! って怒鳴ってやりたい。
なんとか、堪えているのは主将の金城が「暫く様子を見よう」という命令を俺にしてきたがったからだ。変に横からちょっかいかけて、拗れるのを避けたいっていう金城の魂胆はよく理解出来るし、エースであり主将である金城がそうしろってンなら俺は従うけど、部全体の雰囲気がなんとなく悪くなるのは、良い気がしない。
期待の新人、大物クライマーっていうのはそれだけで特別なのに、小野田チャンも真波もそれぞれインハイ優勝経験者だ。
俺もその一人な訳だが、この部に所属している奴らは高校時代もみんな真面目にペダル踏んできた奴らばかりだ。一生懸命、勝利っていう二文字を勝ち取るため全部捨ててきたような野郎だって中にはいる。それでも勝てなかった。インターハイという誰もが夢見る大舞台で。優勝することが出来なかった。小野田チャンや真波と一緒の大会に出て負けてきたっていう連中も中には沢山いるんだ。
それはようするに、あの恍けた一見凄そうに見えない不思議ちゃん達の実力を認めた上で期待しているっていうことになる。期待っていうのは怖いぜぇ。勝手に期待しているのはこっちなのに、裏切られた時は「なんでだよ!」って怒りの矛先を相手に向けられるし、なにより期待されている人間って言うのはそれだけで、その場の空気を操れるんだ。
もちろん、この空気操れる術を上手に生かせればそれは策士として上手に勝利へ導くことが出来るだろうが。
今まで、小野田チャンも真波もそんな期待されているからある影響力っていうのをまるで感じたことはないだろう。プレッシャーっていう言葉からコイツ等全然、遠く離れた場所で生活してたからなぁ。
まぁ、何が言いたいかってと、部への影響力が半端ないからアイツ等が親しく和気藹藹とやっていた時は良かったけど。悪い空気になってからは部員全員がすげぇ居辛い中に居るし、中には実力で真波と小野田チャンがレギュラーとって走ることに意義を唱えなかったけど、こんな険悪な空気を持つ二人がチームプレイ出来るんでしょうか? って文句つけてくる奴も出てくるだろう。
そうなりゃ最悪だ。
口煩い蠅どもが集り出したチームなんてのは碌なもんじゃねぇ。けど、今のままの空気を部活中も貫くんだったら蠅共が煩く喚く気持ちも俺には判らなくもナイんだよなぁ。だけど、んなの湧き出したら邪魔過ぎて仕方ねぇヨ。
俺と、金城はもう三年間大学時生活を終え、既に四年目になろうとしている。つまり、最後の試合だ。俺は高校時代には届かなかったあのとんでも無い勝利を手に入れる瞬間に今度こそ立ちあいたいし、俺のエースを表彰台へ送ってたりたいっていうのに。時間が限られた中でホント、こんな喧嘩は迷惑以外のなにものでもねぇんだよ、馬鹿チンがァ。










杞憂していたことが現実になる方が実は珍しいんだケド、俺の鼻でかぎ分けちゃった、悪い勘っていうのはどうしてこうも当たるのかと辟易しそうになる。



二人が喧嘩して一ヶ月経過した。何が原因か解らないまま進み、金城の方も流石に堪忍袋の緒が切れたのか小野田チャンの方に事情を尋ねてみたらしいケド、小野田チャンは「僕が悪いんです」の一点張りでなにも応えてくれなかったという。金城が尋ねてダメだったら俺が聞いても他の部員が聞いてもダメだろう。
こういうこと昔は総北で無かったのかよ! と声を荒げて尋ねると「小野田が意固地になることはあったが、たいてい巻島がどうにかしてくれていた」という返答が来て、オメーじゃダメなんだなァと八つ当たりすると、ちょっと落ち込んでいたから、悪いことした。巻ちゃんねぇ。あの緑頭に出来てオメーに出来ないことはねぇって俺なんかは思うんだけど、なにしろ金城の話によると小野田チャンは巻ちゃんに絶対的な信頼を寄せていて、卒業する前に貰ったお礼の品々の数も巻ちゃんが一番多かったっていう話だった。
俺にはあの緑頭のどこに信頼する敬意に至ったのか解らないが、泉田が盲目的に新開のこと好きなのと一緒かと思ったら、どこか納得できた。あの筋肉野郎も新開のどこに憧れの要素抱くのは俺には全然わからねぇからなぁ。

因みにだ、一か月前と比べると喧嘩は倦怠期ではなく悪化している。
部員の殆どがもう仲直り無理なんじゃナイ? って諦めちゃいそうになるくらい。なんか、一か月前は小野田チャンがひたすら自分を責め続けているって感じだったけどほんの一週間くらい前から、小野田チャンの方から真波を避けるようになった。しかも、今まで真波に誘われなかったら一人で自主練していたのに、同級生のそこそこ踏めるクライマーと一緒に練習始めちゃったりして、それを見た真波が更に不機嫌になったりしているから、部内の雰囲気はもう最悪だ。
小野田チャンも自分が悪いって落ち込むのを通り越してなんだか腹が立ってきたんだろうなぁってのは良く分かった。俺だったらあんな態度とられた日には一発どころか何発か殴って認めてる奴だったら一緒にロード乗って仲直りするけど。
まぁ、小野田チャンと真波はそれが出来ないから、こんな拗れた喧嘩になったんだろうよ。そりゃ、二人ともすげぇ仲が良かったけど、お互いのこと「坂道くんは凄い人だ」「真波くんは凄い人だよ」って言い合っている感じがして、直視したことなかったもんなぁ。
例えば、一方的で盲目な信頼でも俺と福ちゃんみたいに、どん底にいた俺に対して福ちゃんが、この一見なんの役にも立たない、ただ前に進むだけの乗り物であるロードを教えてくれて、一度真っ向から対立して俺が折れたから今の関係があるっていうとまた違って上手くやっていけるんだろう。
だって、俺と福ちゃんは別に対立すべき好敵手じゃねぇんだ。福ちゃんはライバルじゃない。今は倒したい敵でもあるが、実力の全てを出しきって福ちゃんと一対一の勝負をしようとは思わない。もちろんチームが勝つためならヤルさぁ。けど、俺は福チャンに認めて欲しいだけで勝ちたいんじゃねぇんだ。だから、なに言われようとなんでも従うし、褒めて貰えるだけで満足だし、こっちが一方的になんだか一言じゃ言い表せない友情ともまた違った愛情を向けていても擦れ違わないし喧嘩なんてしないけど。
アイツ等は違う。正真正銘、きっと人生で一度くらいしか出会えないライバルって奴なんだ。
互いが切磋琢磨して競い合って行く相手。けど、そういう相手には全部曝け出さないといけないのに、お互いがお互いのこと好き過ぎるあまりか、自分の汚い感情とかブツけることなく今まで一緒にいた。いや、多分だけどヨ。汚い感情なんてものも無かったんだ。走って競い合っているだけで幸福だったんだけど、折角、一生に一度しか出会えない相手と巡り合えたんだから、それだけじゃ足りなくなってくる。
だから、今回の喧嘩も二人のことを考えれば別に悪いことじゃねぇんだ。

喧嘩している最中だってのに、真波の野郎も小野田チャンもなんだかんだ言いながらお互い意識しているのが丸わかりなので、喧嘩としては悪化しているけど、嫌いあっているわけじゃないことは、明白なんだよネ。
だから、何が原因かってことさえ解ればすぐに仲直り出来ると思うんだけど、そう上手く物事が運ぶ訳もなく、俺や当人たちより先に爆発した部員が特にあからさまだった真波相手にちょっと口出しちゃったんだよネ。

まぁ、事情知らない側からみれば真波が一方的に小野田チャン虐めて空気悪くしているように見えたから、俺も先に矛先が向いてぐちぐち言われるのは真波だろうなぁと思ってた。





「真波お前さぁ、いい加減にしろよ」

夜練を終え部室へ帰ってきた瞬間だった。
言ったのは真波より一つ年上のクライマーだ。人望があって登ることに一生懸命で我武者羅な匂いがして俺は嫌いじゃねぇけど、コイツが真波と小野田チャンが入部してくることによってレギュラー落ちしたヤツだってのも知っている。肉声を聞いたときに、ああ、コイツが先手を切って言うことになったのかヨ……と思うとどことなく責め辛いし、止め辛い気持ちになったら実力が足りない癖に喚く蠅には違いねぇ。
俺が戻ってきたことに気付いてないから、流石に副部長である俺が止めに入ったらコイツも慌てて口を閉ざすよなぁと、のらりと前へ出ていこうとしたのだが、真波の奴、言い返しやがった。

「なにをですか? 俺ってなにか迷惑かけましたかね?」

迷惑かけましたかね? じゃ、ね――だろ! 迷惑かけまくりだ、このアホ! こんな所まで天然なのかよ! と心の中で思うだけじゃなく早く間に入ってやるべきだった。
間髪入れず、相手は言い返す。最近、真波と小野田チャンの仲が悪いということ。そのせいで、部の雰囲気全体が悪くなってきているということ。練習にお前たち自身が真面目に取り組んでいないことなど、たまり溜まった鬱憤を吐き出していく。
なるほどなぁ、コイツ真波と小野田チャンにレギュラー取られたこと、相当悔しかったんだろうなぁ。気付いてやれなくて、もっと上手く上級生としてフォローしてやれなくて申し訳なかったなぁ、なんて気持ちも浮かんでくるけど、自分の練習に身が入らない理由だったり、レギュラー落ちした不満を下級生にぶつけているようじゃ、どうせコイツもそこまでの選手だったんだろうなぁっていう落胆も僅かにある。俺は嫌いじゃなかったのにヨ。


「貴方には関係ないじゃないですか。それに、これは俺と坂道くんの問題ですし」


坂道くんとの問題ですし……――と言いながら真波の目は笑っていなかった。この野郎がこんな風に怒りを直接露わにするのは珍しいし、どうせお前のような実力の人間にはこの喧嘩の意味なんて理解することすら出来ないと言っているようにも見えた。
あ、と相手の方が拳を震わせているのが分かったから、コレは殴るなァと思ったので、つい黙ってみてしまっていたは止めに入ろうとしたのだが、俺が止める前に奥の方で息をひそめて事の成り行きを見守っていた小野田チャンが二人の間に割って入った。

「すみませんでした」

頭を下げた小野田チャンが謝罪する。身体が震えているから殴られる覚悟決めて間に入っていったんだろうなぁってのが分かって、コイツの一見なよなよに見えて決断力がある所が俺は嫌いじゃねぇ。

「ぼ、ぼくと、ま、真波くんの喧嘩、が、そんな風にみ、みなさんにご迷惑かけていたなんて、知らなくて。すみません、すみません」

あまりにも全力で頭を下げる小野田チャンを見ていると周り人間も毒気を抜かれたのか、別に気にしなくてもいい――みたいな態度になってきて、俺はつい感心してしまった。低姿勢と言えばインハイ優勝者小野田坂道を認め憧れる人間にとって、ある意味、幻滅する姿なのだろうが、自分の非を認め素直に謝罪することが出来る所は好印象を抱くだろうし、一年でレギュラーとった奴に頭下げられたら許してやるかという気になるしかない。なぜなら、ココで許さず怒りをまだ他者にぶつけるようなプライドの小さい人間はこの部にはいねぇからだ。



「なんで、その先輩庇うの、坂道くん」


まぁ、空気読めない奴はまだ居るみてぇだけどな。

「べ、べつにかばったわけじゃないよ」
「か、庇ってるじゃん! あ、そうか、そうだよね! その先輩だって、似てるもんね! 坂道くんが一か月前の大会で凄い登りをする選手がいるんだって褒めていた人に!」

ハァ――?? 一か月前の大会って言えばァたしか、うちの大学は二チーム作って同じ日に開催させる別の大会に出場した時のこと言ってんのか? 
同日開催なんて珍しくてあまりあるもんじゃねぇけど、その日は地元静岡で行われる大会と関西の方で行われる大会があったから、色々な可能性を試したい――っていう金城の提案の元、レギュラー陣と戦力になりそうな奴らを二チームに分けて大会に出場したんだ。真波はその日、関西の方で行われる大会の方に出ていたし、俺や小野田チャンは静岡の高いの方に出場していた。
あの時のこと言ってんのぉ? てか、なに、もしかして、喧嘩の原因ってお前らソレなのォ??


「別に似てるから庇ったわけじゃないよ! そ、それに、そんな事言ったら、真波くんだって最近、ずっと練習一緒にしている岡崎くんだってこの間すごく褒めていた選手に似てる登り方してるけど、それで、なんでしょ!」
「意図して選んだわけじゃないよ。前から岡崎くんは坂道くんには及ばないけどいい上りするなぁって思ってたし。それに、なに? もしかして、一か月前のことまだ根に持ってるの?」
「え、なにそれ! それ言うんだったら真波くんも、でしょ!」
「そりゃ根に持つよ! 三日間も連続で、凄い登りをする選手がいてねって話された俺の気持ちにもなってみてよ……!」
「け、けど、真波くんだって三日連続で、とっても面白い登りする選手がいてねって言い続けてたよね!」
「ちょっと仕返しもあって言ってただけだよ俺は。だってずっとずっと坂道くん俺以外の人のこと、褒めるんだもん! 坂道くんのライバルはこの俺! 俺以外の選手を褒めたり対戦したいなんて言うの許さない! そりゃ、色んな人と登るのは楽しいけど、俺が一番だし、俺以外の人のこと好き好きって言ったら嫌なんだもん!」
「そんなの僕だって同じだよ! 僕も意固地になっちゃって、止め所わからなくて、褒め続けちゃって! 真波くんがスゴイ選手だって十分知って居るし、君が山を登るのを誰よりも愛しているのも知って居るけど、僕が真波くんと一番走りたがっているし、僕以外の人のこと、そんな好き好きって言われたら辛かったんだもん!」


もん! もん! ってお前らはなんなの、女子か?
ちなみにココまでノンストップ。息継ぎなして怒鳴り散らして、二人とも顔が真っ赤。コイツ等、俺にとっては永遠に後輩だけど、仮にも高校出て大学進学してるんだよネ。ほんとうかよ。こんなガキでよく自分のチーム引っ張っていけたな。俺がコイツ等より年下だったら、大丈夫かなこのチームって心配になるんだけど。
ようするにアレだろ。アレ。
見事に痴話喧嘩じゃない? お互い好き過ぎて起こるこの世で一番下らない喧嘩してたんじゃナイのぉぉぉぉ? コイツ等!!!
ふざけんなヨ! マジで! どんだけ部に迷惑かけてると思ってんだヨ! 触発されて真波に喧嘩売った奴も練習一緒にしていただけなのに自分の名前突然上げられた岡崎も不憫でならねぇし、ここまで言い合ったのに、まだ睨み合ってるコイツ等の馬鹿さ加減に呆れ通り越して諦めてしまう。

「おい、お前ら。とりあえず、もう夜も遅いけど二人で山でも登ってこい」

後頭部を手のひらで殴りつけてさっさと部室の外へと追い出した。









くだらない話のくだらない後日談なんだけどぉ、俺は一応言い出した手前、もう夜中だし山まで登って帰ってこなかったりしたら心配だし、まぁ、部室の掃除もあったしちょっと居残りしてたんだよネ。金城も部誌とか色々、大会に出るには書類製作する必要もあるし俺達二人で残ってたんだけど、全然、帰ってこないから心配で校門付近まで見に行くと、街灯と下ですっかり仲直りしたらしい満面の笑みを見せ合いながら真波と小野田チャンは向かい合っていた。
ああ、良かったなぁと金城と二人で肩の荷が下りた気持ちになって、俺達も帰るか――と伸びをしたら「静かに」と金城が耳元で囁くもんだから、もう一度アイツ等の方を見ると、なんとキスしてやがった。
初めは触れるだけの軽いキスをしたかと思うと、俺もまだしたことがない舌と舌を絡ませあうようなエグいヤツをかましてくれた。唾液でぬれた小野田チャンの口許を拭うように、真波の野郎が親指で擦る。二人はお互い見つめ合ったまま、好きだよ、とか、ごめんね、とか、言い合ってそして再びキスをして抱き合っていた。
俺は静かにと言われたから静かにしていたのか、驚きのあまり動けなかったのか判別が出来ないまま固まってしまい、どうしよう……と焦った顔で金城を見た。
だってよぉ、そりゃ、くだらない痴話喧嘩かよ! とは思ったけど、まさか後輩二人がホモで恋人同士なんて想像してるわけねぇだろ。ヤベ、今度からホモかよ、とか吐き捨てるように言って囃すの止めないといけねぇなぁ。
まじで、ホモだったのかよ、お前ら。そりゃ、永遠のライバルってやつのくせに、お互いがお互いのこと好き過ぎるし、今回みたいに行き過ぎた愛情で自分の心がコントロール出来なくなって喧嘩もするし、冷却期間出来るよな。


「なぁ、金城。現実だよな」
「ああ、荒北。間違いなく現実だが、仲直りしたのならそれでいいだろう」
「まぁね。すげぇ迷惑かけられたけど」
「お前には負担をかけてすまなかったな。悪態をつきながらもお前が部員の皆を抑えておいてくれたから、この程度で済んだんだ」
「ま、お前より大所帯の扱い方とか慣れてるしなぁ。それに、これのアシストの仕事ダロ。気にすんな」
「助かる」

なんとなく現実逃避のような労いを受けながら、街灯に照らされてキスして、笑い合っている二人見て、迷惑かけやがってコイツら……という僅かな怒りもあったのだが、なんとも幸せそうに微笑みあう二人の姿を見て気持ちが満たされていくのがわかった。
食堂で食う唐揚げ定食も今日までよりなんとなく美味く感じられるようになっていそうだ。