「靖友セックスしないか」

寮の私室を叩く音がしたので、出てみればバキュンッというお決まりのポーズをとりながらフザケタことを言う新開の姿が目に映った。なに考えてンだ。ヤルわけねぇだろうと、扉を閉めようとすると剛腕がするりと扉の隙間へと侵入してきて、拒絶を食い止められる。

「オイ、手挟まれてぇのかよ」
「挟まれたくないから、部屋の中に入れてくれよ」

なぁとコチラを見透かすような眼差しに純粋な苛立ちが頭の中で募ったが、下らないことで怪我でもされたら溜ったもんじゃねェ。それに消灯間際の時間に騒いでいたら、寮長からどんな小言を吐き出されるか判ったもんじゃね――廊下を歩くヤツだって、俺たちが騒いでたら、下手すり「喧嘩か?」なんて言いながら覗きこんでくるだろう。
チッと舌打ちをしたあと、わざとらしく扉に入れていた力を緩め「ドーゾ」とだけ述べた。

「で、どうしたんだよ。イキナリ」
「いや、寝る前に靖友のことを思い出していたらしたくなってな」

動物かよ、テメーは! 衝動のままに動いてんじゃねぇよ! と文句を怒鳴りつけてやりたいが、部屋の中へと入れてしまえば了承したも同然だ。顔に伸びてきた指先を拒絶することも敵わない。せいぜい、コチラが出来る抵抗と言えばギロリと新開の野郎を睨みつけるだけだ。その眼光の威力でさえ、新開にしてみれば些末な場の雰囲気を盛り上げる為だけの要素でしかナイと思うと、腹立たしい。殴り飛ばして逆にこちらから襲いかかってやりたい。
顔が近づいてきて、手のひらが両頬を包む。サドルを握る掌はマメが出来ていて堅い。自転車乗りなら誰だって、皮膚が焼け再生した後のように手は滑らかではないが、新開のヤローの手は特別堅い気がする。それとも、コイツ以外の手をそんな風に触ったことねェから思い込んでいるだけなのかも知れねぇが。
寝る前だったってのは本当なんだろう。口臭から歯磨き粉の匂いがする。キシリトールの鼻にくる香りがいつもと違ってなんだか慣れない。眼を瞑るタイミングを忘れてしまい、真正面から新開の顔を見てしまった。

「ん――」

声を上げたのは俺じゃねぇ。新開の声色だ。自分からキスしてきたくせに、んっと喉が詰まる音を隠せねぇ。もともと、俺と違ってコイツはセックスするときに発する喘ぎ声を恥ずかしいとすら思わないのかセーブしようとしねぇ。お蔭でヤってる最中はスゲー煩い。
肉厚がある新開の唇が俺の薄っぺらい唇にあたり、舌先が歯茎の隙間を這うようにして入ってくる。唇も厚けりゃ舌だって厚い。牛で焼いて食べたらきっと美味いぜコイツは。

「靖友――」

舌を絡めているというのに、名前を呼ぶ為だけに顔が離れていく。そして啄むような感覚で二・三回口付けをされたあと、濃厚なやつをブチこんでくる。コイツのいつものパターンだ。そんで、もう、限界とかいいながら押し倒される。

「いつも思うけど、テメー限界早すぎだろ」
「靖友がえろいのが悪い。前はこんなんじゃなかったんだぜ」
「ハッ人のせいにしてんじゃねぇよ」

前ってなんだ。比べてんなよ、このデブ。
押し倒されたベッドの中で言ってやると「けど本当のことなんだ」と何故か伐が悪そうな顔をされた。知るかよ。んで、ヤるんだったらさっさと解せ。テメェとする予定なんかなかったから、こっちがなんの準備もしてねぇんだよ。

「靖友もちょっと勃ってる」
「そりゃ……うるせ」

下着をずり下ろされると、わずかに反応した陰茎が見えた。濃厚なキスをセックスの前にいつもしてくるテメーが悪い。お蔭で起爆剤の変わりとなって、底がつきない肉棒で犯された過去のことを身体が思い出して勝手に興奮してやがる。既にフル勃起しているお前よりマシだと手を伸ばして、新開の股間に軽く触れる。意図を察したのか顔を赤くさせて「イくからやめてくれ」と言われた。だから早すぎるダロ!

「ペニスも触りたかったけど、もうここは良いかな」

テメーがはやく挿入したいだけだろーが! と思うが言わずにおいてやる。ポケットの中から取り出したローションをひと肌の温度に馴染ませていく姿をみたからだ。指先につけた後、普通にケツへぶっこめば良いのに。無駄に優しくて嫌になっちゃうネ。
冷たくなくなったところで新開の指いっぱいに塗りたくられ、俺の後孔へと指先を押し入られる。

「っ――」

異物がゆっくりとだけ入っていく感覚は未だに慣れねぇ。もともと、こういう目的で使用されることのなかった器官だってのがよく判る。いつまで経っても妙な恥ずかしさが募るのは、自分と新開がしている行為がどこか背徳的な一面を孕んでいるからだ。

「すぐ緩くなるなぁ。靖友の」
「テメー! 失礼にもほどがあるだろ!」
「わかってるよ。俺が二日前にもココにブチ込んだからだろ」

日を置けば緩くはなるが、初めての頃に比べて俺の中はすっかりゆるくなってしまった。初めて新開とした時は本当にあのデカブツが中に入る日が来るのかヨ! ってくらい堅くて。実は一度、痛くて行為を諦めたことだってある。それほど前でもないのに、発情期がずっと続いてるみてぇなコイツとのセックスは初めてした時から、数えきれねぇくらいしたから。随分と前に思える。
あの時に比べたらそりゃ緩い。ゆるゆるだ。いつか脱糞しちまったらどう責任とってくれんだ! ハッ! ってくれぇには。自身の中でいろいろ茶化してみたが、緩くなったそれを自分でも自覚しているだけに、新開のその発言は恥ずかしい。頬が染まっていき、しかも、テメーもわかってんなら、言うなよ! と述べたくなる。

「俺の指に絡みついてきてる」
「ダカラ、言うなよ!」
「靖友の中が。俺の指を離さないから悪いんだ。温かくて気持ちが良い」
「ハッ」

まだ肉棒をつっこんだ訳でもねェのに、お幸せなこった。喋りながら指の数を増やしていく所なんかに、若干の悪意は感じるけどな。
ずぶりと肉壁を広げるみたいに新開の指が、二本、三本と増えていく。趣味の悪いコイツは三本目まで指を増やすと必ず俺の中が広がっているのを確認するように顔を下半身に埋めて、肛門の中身を見ようとする。俺の体勢は赤ん坊がおしめを変えるポーズにされちゃう。初めてされた時は踵落とし食らわしたが、めげずに見ている姿を見てもう諦めた。手加減したといえ、アレ食らってでも見たいんじゃもう止め方なんてワカンネよ。ホント、悪趣味すぎるダロ。

「靖友の中はいつもきれいだ」
「っ――そうかよ。イイから、さっさっと突っ込めよ。もうパンパンじゃね――か」
「ああ、破裂しそうなんだけど、暫く眺めていたい気もする」

変態すぎるだろ! いい加減にしろ! と言う前に新開の息が後孔に触れた。昂奮しているのが判る鼻息が皮膚にあたるとぞわぞわと言いようのない快感が足の付け根からじわじわと登ってきているような気がする。コレを焦らされてるっていうんだろうな。俺は早く中にブチ込んで欲しくて堪らなくなっていく。狙ってやってるなら大した策士だ。

「舐めていいか?」
「イイわけあるか? て、許可してねぇだろ!」

許可を出す前に新開は俺のなかから指を抜きとり、代わりに長い舌を入れてきた。コイツはなんでもかんでも、ビックサイズで舌だって長くて太い。唾液と共に肉厚が入ってきて、指とは違う失陥に、もう嫌だと新開の頭を押して抵抗を示すが逆に押し付けられているみたいになって興奮したのか、舌先の動きを更に進めてきた。

「っ――ハァ、あぁ、ヤメ、ロって、なぁ、新開」

じゅるじゅるじゅると俺の中から出てくるものを吸っている。コイツがさっき塗りたくったローションを吸って、意味ねぇことしてんじゃねぇぞ! と思うけど、きっと顔を上げたら「靖友の我慢汁も混じってるさ」なんて言ってくるので、俺はもう何も言えない。

「新開、な、も、ん、はぁ、早く、早く、イれろよ」

いつもそうだ。なんていうか、コイツから誘ってくるくせに、最終的に俺から強請るっていうパターンに持ち込まれる。良くいえば優しすぎる新開の前座(悪くいえばしつこいし変態的)に気持ち良くなる自分がどことなく、これはもう雰囲気で察してもらうしかないんだけど、言いようのない惨めさと気持ち良さが同時に押し寄せる。胸の中に快楽と侘しさが凝縮して集まっていくような感じだ。
新開の髪の毛を掻き毟るようにして、早くそのデカブツを俺の中に入れてくれという。生理現象で涙が出てくる様子が良いのか、俺が毛を掻き毟り始めると、顔をあげて「靖友」と熱を孕んだ、うっとい声で俺を呼ぶ。

「ごめん、ごめん」
「オメーそのごめん何回目だよ」
「いや、靖友が可愛すぎて。いつも夢中になっちゃうんだ」

今入れるよ、と俺の股間を舐めていた口でそのままキスしてきた。最悪だ。ゲロマズ。気持ち悪いけど、ようやく後孔に新開の肉棒が入れられることによる安堵感に身が沈んでいく。
俺の脚を持って、股間に亀頭があたる。ずぶりと隙間を割って入っていく。舌とも指ともまるで違う異物感は緩くされた肉壁の中を辿って、ずんずんと奥の方へ進んでいく。睾丸が尻たぶに触れるくらい密着すると陰毛がちくちくして、ヤバいくらい気持ち良い。

「ハァ、はぁ、あぁ、新開。動けよ、もっと」
「待って、俺もイっちゃいそうだから」
「お前が焦らし過ぎなんだよ!」
「ごめん、ちょっととりあえず一回、靖友のなかでイかして。すぐに復活するから」

なんて身勝手なセックスなんだと呆れてしまいそうになるが、俺の中にチンコを突っ込んだコイツが耐えられる訳がないってのも知っている。舌打ちをしながら許すと新開の精液が内臓にぶち込まれるみたいにどぴゅっと発射された。

「っ―――」
「はぁ、あぁあぁ、靖友、ありがと。気持ち良かった」
「っ――はぁ、満足したなら、サッサと復活しろ」

はやくイかせてくれ――とこっちから強請る様にキスをしてやると、みるみるうちに萎んでいた肉棒がマンモスサイズに復活していく。絶倫様は今日も絶好調だな! ハッ!

「っ――ぁ、あはぁ」

復活した肉棒が俺の中で暴れまくる。腰を激しく打ち付けるようにスライドさせ、先端まで抜かれたかと思うと、次の瞬間、最奥までぶっこんでくる。亀頭が前立腺に触れると足の指先がツリそうなくらい気持ち良くて身体に電気が走る。達するって時に動きを止められて焦らされキスをされるからホントこっちは堪ったもんじゃねぇ。

「新開――はぁ、あぁあ、、も、無理だ」
「良いよ、イって。俺もイくから」

さっき出したばかりだってのに、どこにその元気が潜んでたんだよっていう新開のことを遠目に見ながら、ゆっくりと自分の中で溜っていた性欲が爆発する音を聞いた。








「お前、ホント手加減しろよ」

だからテメーとするのは嫌なんだ――と行為が終わった後ベッドで文句を垂れていると、情けと言わんばかりの水が入ったコップが新開によって渡された。
結局あのあと、六回セックスした。新開は早漏のくせに絶倫という最低の奴なので我慢に我慢を重ねてもこれくらいの数にはなる。俺の腰はもれなく暫く死んでしまう。

「ごめん、ごめん。けど、そういってお前さんはまたヤらしてくれるだろ」
「ちょーしのんな」

足で蹴ってやろうとしたが、腰が痛くてやめておいた。ま、練習が次の日休みだったら考えてやらないこともない。