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誰でも分け隔てなく仲良く出来る「ふり」が上手い奴というのは、人のことを些細なことで笑ったりするものだ。
例えば、4組の山田なんかは人との距離が近くて僕に対しても慣れ慣れしく接する奴だけど、人が少しでも本音を言って真面目に受け答えしてあげると、誤魔化すかのように哄笑して真意を隠すのだ。
大抵の奴がこのトリックとも呼べる現象に騙されてしまう。どうして自分が発した言葉が笑われてしまったのかなんてことを、空気が読める奴は考えずにスルーするし、人間付き合いが下手糞な奴ほど、どうして自分が発した言葉が笑われたのかなんてのを考えて、聞き返したり、勝手に恥じたりして、どのみち傷つくのがオチというものだ。
嗤われたことに理由なんてないのに。馬鹿みたいだ。ただ、会話の流れに属さない言葉を発したから、誤魔化す為に笑われたというだけだ。哄笑に意味などない。
僕は別のことのこが悪いなんてのを言いたいんじゃない。勝手にやっていればいいし。あえて人が傷つくような言葉を選別して肉声にだし放り出す僕と比べれば如何程にもマシというものだ。
ただ、別に良いこととは思わないのは、別に自分の意に反する言葉が紡ぎだされても、笑うことなく過ごせる人間を知ってしまったからだろう。


アイフォンに手を当て、音楽を止める。ヘッドウォンは外さないけど。昼休み教室の隅の自席に腰かけながら、誰かの言葉を笑い飛ばすことなく受け答えできる男の困りきった後ろ姿を眺めた。
山口は相変わらずひょろりとした体躯を少し屈めながら、会話が苦手なクラスの美化委員の女子と話をしている。部活で美化委員の奉仕作業にこの間参加出来なかったから、変わりに花壇の水やりでも頼まれているとかそんな所だろう。昼休みになると真っ先に僕の所にくる山口が寸前のところで捕まってしまった姿も僕は見ていた。
内心、早く会話を切り上げてきたい所なんだろうけれど、誰の話でも熱心に聞くことが出来る山口は、じゃあね、と言って話を途中で止めることが出来ない。菅原さんみたいに聞くのも話すのも上手だったら、適当なところで話を終わらせることが出来るんだろうけど。無理だろうな。山口は。話すのが下手ということはけしてないのだが、特別うまいってこともないから。
美化委員の子はただでさえ話をするのが下手なのだ。僕は聞くに堪えかねないから用件だけ伝えてもらうと立ち去るし、特に彼女と友達でもない、ただのクラスメイトとしての人間はさっさと話しを切り上げる。それこそ、四組の山田のように、大笑いを零して立ち去る人間だっているのに。
熱心に話を聞いて、相打ちをしている。くだらない、女特有の遠回しの会話に付き合っている。
山口も誰でも分け隔てなく「仲が良いふり」をするというのは得意なんだろうけど、こいつは決して哄笑して話を切り上げたり、相手を小馬鹿にしたりしない。口に出さないが、良くやるよホントに……――くらいは思っている。僕は無理だからね。

「ツッキーごめんおまたせ」
「別に待ってないよ」
「うん、けどごめんね」

昼食を取り始めてないのが待っていた証拠だと気づきながら、山口はへこへこと頭を下げた。