二口と茂庭♀ | ナノ
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茂庭さんが砂浜に座っていた。ビニールシートを引いて、巨大パラソルの下で麦わら帽子をかぶりながら、海を眺めていた。せっかく海に来たのに泳げないなんて、タイミングが悪い人だと俺は持ってきたかき氷を差し出す。

「はい、茂庭さん。いりますよね」
「え、いいの二口。わーい、サンキュ」

間抜けな声を出して茂庭さんはかき氷を受け取る。ブルーハワイが一番好きなのを知っていて差し出した青色のかき氷をストローですくいながら器用に食べている。俺は横に腰かけて、あくまで日影にあたっているんですよ――というアピールを欠かさずに寝転ぶ。

「二口はいらないの?」
「俺はいりません。お茶買ったついでなんで」

真横に転がしておいた、お茶をひらひらと泳がす用に手に取って見せて振った。茂庭さんはなるほど、と納得しながらかき氷を食べながら海を眺めていた。
女子バレと男子バレが合同で海へ遊びに行こうということが決まったのは三週間前。レギュラーは強制的に参加。別に強制しなくても女子に飢えている工業高校の男子にとって数少ない自校の女子と遊べる機会に参加しないインポはいない。俺は別に来たくなかったけど、茂庭さんが来るというから参加した。
水着とか色気がないものを着てそうだと一人で想像していていたのに、まさか諸々の理由で(まぁ言わないし男が察して口を閉ざすものだと思うが、生理がきてしまったのだろう)見学とは。
しかし、珍しく白いワンピースに身を包む茂庭さんが見れたので良いとしよう。
スカート姿の茂庭さんは想像以上に可愛かった。可愛いというか白いワンピースを履いた女なんて、無垢さが見えず化粧で塗りたくられた不細工で人工的な顔が可憐とは遠ざかり、なんてこいつらの恰好は自己満足なのだろうかと嘲笑うのだが、茂庭さんの服装はとても自然で、着飾っておらず、素の自分がすとんと丸裸でいるかのようだった、まぁ、もう少し、防御力は高くなって欲しいと、貴方に惚れている一人の男としては思うわけだが。

しゃりしゃりと茂庭さんがかき氷を食べている音が聞こえる。周囲では楽しく海にきて燥ぐ声が鳴り響いているが、パラソルで一線を引いているお蔭で、茂庭さんの周りは静かだった。寝転び茂庭さんをただ眺めるといった海の楽しみ方をしている俺だったが、やっぱりこの人の近くはとても居心地が良いのだと流れてくる温風のあたたかさを肌で感じながら思った。
俺は自分で言うのもなんだが、わりと気を使って喋る方だと思う。鎌先さんあたりが聞くと「どこがだ――!」と爆発するかもしれないが、なにも他人の為に気を使って喋っているというわけではない。俺自身が、無言という空間がとても苦手なのだ。気を置けない人間ほど無言でいる空間というのは辛い。辛いから思い付いた言葉の羅列を適当に並べて飽きない程度に会話する。そうしないと息が少し詰まってしまう。
だけど茂庭さんといると、別に喋っていなくても良い。無言で彼女のことを眺めているだけで良いのだ。そうするだけで、俺は微睡の中に溶けていくような幸せを味わえる。羊水の中にいる赤ん坊はこんな気分なのかも知れない。すると俺がマザコンみたいに勘違いされて癪だけど、海の瞬きが見える空間はそれだけで良い。
茂庭さんが振り返った。舌を出して水色になってしまったことを見せている。その舌をひっぱってキスしたいってさらっと述べたら顔を真っ赤にして「冗談はやめなさい!」と叱られてしまった。冗談じゃないんだけど、可愛かったからいっか、と思い、茂庭さんの流れる髪を眺めていた。