国見♀と金影♀ | ナノ
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学校や会社というのか空気の塊であると私は仮定する。なぜか皆、同じ雰囲気を持つ人間で集まり、群れをつくる。ある一定の思想を元に構築された、集団は、皆が大衆に合わせることを自然とする、淘汰されるべき生き物たちのように、臭い息を吐きながら、思考しない脳味噌で平然と生きている。別に私はその生き方を否定するつもりはないのだ。

たとえば私の横で、群れを構築する権力が初めからとても弱く、除け者になってしまったチームメイトを見ても同じことが言えるだろう。合わせられない力がなに人間が愚かなのだ。
私も、自由気ままに生きているし、権力を誇示する群れを意図的に作ろうとはしないけれど、学校という小さな社会の縮図から(子どもにとってはその世界がすべてなのだから)迫害されることなく上手く生きていく術を知っている。技術の一つなのだ。
私の横の席に座るチームメイトはそういった技術を一つ身に着ける要素を、どこかへ置いてきてしまったのだ。才能という宝物と引き換えに。思考して他人と合わせるといった能力を。他の誰かを思いやるといった力を。
私が思うに、彼女の一番足りない部分は人の話を碌にきかないところか、傲慢に命令を下す所でもなく、現状を変えようという努力もせず、はじめから悪いのは他者だと決めつけ、自分しか見えてないといったところなのだろう。彼女の視野は生きていくためには、あまりにも小さいのだ。まるで、母親しか見えない赤子のように。本当は、一つ丁寧に教え込まれ、誰かが「●●しちゃだめよ」と優しく諭してやるだけで、純真(笑い)な彼女はすべてを理解し飲み込もうとするのだが。ああ、逆に言い換えれば、誰かがきちんと丁寧に教えてやらない限り、なにも気づかないということだから、やはり彼女は生きていくのがとても下手糞なのだ。

「影山、いるか」

教室内がざわつく。伸びのある凡庸な声だが、場の空気を十分に支配する力を持っていた。間抜けな声に私は溜息を吐き出して、周囲の気配など気にせず寝ていた彼女の肩を叩く。涎を垂らした間抜けな顔を睨み付けながら、声のする方向へと爪を指す。

「金田一、なんの用だよ」

欠伸をしながら彼女は立ち上がった。金田一は別に用事がなかったみたいで、購入したばかりの乳酸菌入り飲むヨーグルトを彼女に手渡した。単純な彼女は喜んで、幼稚園児みたいに嬉しがっていたのに、照れ隠しなのか、金田一の背中を叩いた。

私は馬鹿みたいだという眼差しで金田一と彼女の様子を見つめる。そんなガサツな行動ばかりしているから、女と群れをなすことが出来ず、チーム内からも隅っこへ追いやられるように、排除されてしまうのだ。そこにいる、金田一はバレー部で二年生でありながらレギュラーであるといった実績と運動神経を高く評価され、女子から、一定の人気を誇っている。同じクラスのAさんがチームメイトのKさんが彼のことを慕っているという噂くらい耳にしたことがあるだろうに。彼女はすっかり忘れてしまっているのだろう。
金田一は昔から変わらない笑顔を浮かべながら彼女に話しかける。そういえば私と彼は小学生の頃、同じバレークラブに入っていたという経緯から知り合いであるのだが、私といる時もすっかり彼は影山の話しかしなくなった。男女という垣根がある分、彼女の才能に嫉妬しなくても良いし、横暴さに触れるわけでもない。金田一に彼女はつらく当たり、バレーのことで口論になるが、決定的な溝を作るほどの関係性にも彼と彼女はなれずにい、仲が良いのか悪いのか、果たしてそんなことさえも曖昧な、この中学校というコンクリートに包まれた閉塞的な空間で、青春ごっこを続けている。
金田一が影山を好きなことはわかりきったことだ。彼女がクラスから排除されながらも、
気丈に振舞い、間抜けに大声をあげることのできる、無神経さを貫き通せるのは金田一がああやって気を配り、顔を出すからである。そんな彼のことを彼女はけして嫌ってはいないということを、私は良く観察していた。

「あ、国見―――」

金田一が間抜けな声をあげて私を呼ぶ。
同じクラスのAさんもチームメイトKさんも私のことであるのだけど、影山は覚えているはずがないのだ。